日本人のためのがん予防法

1.はじめに

がんは、予防することができる病気です。がんの原因やハイリスク集団が明らかにされ、具体的な予防法が開発され、がん予防対策が効果的に実施されれば、がんの発生率とそれに続く死亡率は確実に下がるでしょう。

これまでの研究から、がんの原因の多くはたばこや飲酒、食事などの日常の生活習慣にかかわるものだとわかっています。1996年にハーバード大学のがん予防センターから発表されたアメリカ人のがん死亡の原因では、喫煙(30%)、食事(30%)、運動不足(5%)、飲酒(3%)の合計で全体の68%になりました。これらのがん死亡は、生活習慣の見直しによって予防できたものと考えられます。

生活習慣や環境は国によって違い、がんの原因の割合も国によって異なります。しかし、生活習慣の改善で多くのがんが予防できることについては、日本でも米国と同様です。社会全体の対策として、一人一人の行動として、偏(かたよ)りのない科学的根拠に基づくがん予防法の見極めが、重要な課題となります。

 

2.科学的根拠に基づくがん予防とは

がん予防では、他のさまざまな条件とのバランスを考えて、がんのリスクをできるだけ低く抑えることが目標になります。これさえ守れば絶対にがんにならないという方法はありません。がん予防の情報は、日々さまざまな場所から発信されていますので、情報の質をよく見極める必要があります。食品や栄養素はバランスよくとり続けることが前提であり、これがいい、あれがいいという情報にいちいち振り回される必要はありません。生活習慣としての食習慣を改善することと、1つの食品をそのときだけたくさん食べることは、全く違います。

また、通常手に入らないような特別な食品を、高いお金を出して買う必要もありません。がんをはじめとする生活習慣病の予防は、それほど簡単に劇的な効果が期待できるというものではありません。毎日食べるもの、毎日することに不健康な偏りがないかどうか習慣を点検し、少しずつ改善し、慣らし、継続するという地道な努力を、ストレスにならない範囲で工夫するというのが基本的な考え方です。

例えば、いくら運動が良いといっても、ほとんど運動習慣がない人が、ある日からいきなり激しい運動をするのは危険です。最終的な目標を決めて、毎週少しずつ時間や量を増やし、体と相談しながら進めることです。歩く、走るだけでなく、水泳やジム、球技等、幅広い候補の中から、自分に合った楽しいと思える運動を見つけることが大事です。また、買い物や通勤経路を運動量増加の方向で考えるなどの工夫も大切です。

食事も同じことで、これがおいしいと思っているものをいきなりガラっと変えるのではなく、週単位、月単位の献立の中で回数や量を少しずつ変えてみる、あるいは食べ方を工夫してみることが必要でしょう。禁煙外来でニコチン中毒を治療するのも、たばこをやめるためには必要かもしれませんし、体重管理には栄養士の指導が必要になるかもしれません。

いずれにしても、まず生活習慣の点検のための材料として、科学的根拠の確かな情報を集めて、各個人の現状と照らし合わせることが大切です。
情報源として、学会や論文等による研究発表が引用されることがありますが、そのすべてが科学的な根拠に基づいているというわけでもないのです。科学的根拠が確かな発表でも、研究結果の都合の良い部分だけを別の文脈の中で利用するというのは、よくある情報操作の手口です。

また、たとえ良心的に引用されているとしても、その情報を適用するためにはさまざまな方法があること、またそれぞれの方法で、科学的根拠としての意味合いに差があることを知る必要があります(表1)。

表1 人におけるがんリスクを評価するための根拠の種類

ヒトを対象にして行われる疫学研究では、研究対象や方法にさまざまな偏りが入り込む余地が少ないほど、また、研究結果における偶然性がより少なくなるように工夫された方法ほど、信頼度が高いと位置づけられます。また、同様のテーマに対して複数の信頼性の高い研究が報告されていて、その結果がいつも一致していれば、まず間違いないといえるでしょう。信頼のおける方法で行われた研究では、ある要因によって特定のがんのリスクは何倍になるのかという具体的な結論が述べられ、それが偶然の結果ではないという、統計学的な根拠も数値で示されます。

主な疫学研究のタイプを表1に示していますが、信頼度の高い順に、無作為化比較試験、コホート研究、症例対照研究となります。最も理想的なのは、無作為割り付けによる介入研究の結果を待つことです。ある要因を無作為に割り付けることにより、偏りなどの要因が均等になることを期待できます。そうすれば、その要因による効果を純粋に検証することができます。ただ、多くのボランティアの参加を必要とし、大変な費用と人手のかかる方法ですので、すべての疫学研究には使えず、対象は限られているのが現状です。こうしたタイプの研究から、乳がんのリスクが高い欧米の女性で、タモキシフェンという抗がん剤に乳がん予防効果がある(同時に、子宮体がんのリスクが上がる)ことや、喫煙者などの肺がんリスクが高い欧米の男性では、高用量のβ-カロテンに肺がん予防効果がなく、かえってリスクが上がってしまうことなどが示されています。

コホート研究では、大規模な対象集団を設け、長期にわたって観察をします。まず、要因についてアンケート調査などで把握した後、がんの発生を追跡調査するという手法で、偏りが入りにくく、比較的信頼性の高い方法です。しかしながら、ある要因とがん発生との間にみられた関連が本当は第3の要因(交絡要因(こうらくよういん))によるもので、浮かびあがった要因とがんの関連が、見かけ上のものであった可能性を否定できないという限界があります。コホート研究を根拠にがんの予防法を開発する場合には、動物や試験管内での実験等により、そのメカニズムに対する裏づけを得ていることが必要になります。症例対照研究では、がん患者さんのグループを症例群、年齢や性別などの条件をマッチさせたがんでない人のグループを対照群に設定し、がんの発生要因を過去に遡って(さかのぼって)調べます。コホート研究に比べて、結果が早くわかるという利点があります。一方で、適切な対照の設定が難しく、また、要因について過去に遡って調べなければいけないので、さまざまな偏りが入り込む余地が多く、信頼性が必ずしも高くない方法です。このタイプの研究結果が根拠として示された場合には、まだ最終的な結論ではなく、問題提起がされた段階だととらえるべきでしょう。
これに対して、動物実験や細胞などを用いた試験管内実験は、ある化学物質の毒性を確認する場合などには有用です。安全性が最優先される予防原則では、危険のマージンを大きくとって、ヒトへの毒性が疑わしいものは排除していかなくてはなりません。そのため、動物や細胞レベルで毒性が確認されたら、ヒトでも同じ結果になるかもしれないととらえる必要があります。ヒトへの予防効果を確認する場合は、その利益が疑わしいものは採用すべきではありません。動物や細胞レベルで予防効果が確認されたとしても、ヒトで同じ結果になるとは限らないととらえる必要があります。ただし、このような実験室での研究は、無作為化比較試験の手法を標準とし、再現性も確認されている場合が多いために、起こった現象自体の信頼性は高いです。ヒトを対象とする疫学研究で検討すべき課題を提示したり、疫学研究の結果を解釈したりするためには、欠かすことのできない科学的根拠の構成要素となります。しかしながら、その根拠が実験室からのものだけであれば、われわれ人間のがんリスクになるか、あるいは予防に有用であるかについて判断するには、慎重である必要があります。

普段から耳にする機会が多いのが、誰かの経験談や主観的な意見です。このタイプの話題は具体的で説得力があるようですが、実際には何の科学的根拠もありません。

 

3.発がんにかかわるリスク要因の評価

がん発生と生活習慣のかかわりでは、どのリスク要因や予防要因が、どのがんに対し、どれくらいの可能性で関与しているか評価が行われます。世界保健機関(WHO)や国際がん研究機構(IARC)等によって組織された委員会では、世界各国からがん研究に携わる専門家が召集され、これまでに発表された科学論文に基づいて、がん予防に本当に有効であるか否かについて討議されます。

このようなリスク評価の結論は、有効であるか否かのいずれかに帰結させることは不可能であると考えられます。そこで、予防効果の確実性について、“確実”、“可能性大”、“可能性あり”、“証拠不十分”等、いくつかの段階にランク分けして示されます。例えば、WHOの「食物、栄養と慢性疾患の予防」と題する報告書では、“確実”と評価されるためには、「数多くの疫学研究が、一致して予防効果を示しており、その中には、複数のコホート研究、できれば、十分な対象者数と研究期間を有した無作為化比較試験が含まれていて、その作用メカニズムに関して生物学的に説明可能である場合」であり、“可能性大”は、「複数の疫学研究が、ほぼ一致して予防効果を示しているが、対象数や研究期間が不十分であったり、追跡が不完全であったり、研究自体の数が少ないなど、確実と判定するには足りない状況で、動物実験の結果は、その予防効果を支持するデータであり、その作用メカニズムに関して生物学的に説明可能である場合」と記されています。

すなわち、コホート研究や、できれば無作為化比較試験を含む複数の疫学研究によって、「その食品を多くとっている人たちのほうが、がんになる確率が低い」という一致した成績が示されなければ、科学的に“確実”とはいえないことを意味します。
WHOによる食事関連要因に関する評価に、IARCによるたばこに関する評価の結果を加えた概要は、表2aのとおりです。喫煙は、肺がんだけではなく、他の多くの部位のがん(口腔(こうくう)、咽頭(いんとう)、喉頭(こうとう)、食道、胃、膵臓(すいぞう)、肝臓、腎臓、尿路、膀胱(ぼうこう)、子宮頸部(しきゅうけいぶ)、骨髄性白血病)のリスクを確実に上げます。また、他人のたばこの煙(環境たばこ煙、あるいは受動喫煙(じゅどうきつえん))も、肺がんのリスクを上げるのは確実とされています。喫煙以外の要因とがんとの関連で確実だといえるのは、運動不足(結腸)、肥満(食道(腺癌)、結腸、直腸、乳房(閉経後)、子宮体部、腎臓)、飲酒(口腔、咽頭、喉頭、食道、肝臓、乳房)、アフラトキシン(カビ毒の一種で、保存状態の悪いトウモロコシやナッツ等の穀類に混入していることがある)(肝臓)、中国式塩蔵魚(中国の一部地域で食べられている特殊な処理をして作る魚の塩漬け)(鼻咽頭)、また、可能性が高いと思われる関連は、野菜や果物(口腔、食道、胃、結腸、直腸)、運動(乳房)、加工肉(結腸、直腸)、塩蔵品および食塩(胃)、熱い飲食物(口腔、咽頭、食道)等であると報告されています。

表2a 生活習慣とがんの関連*

また、リスクを上げる可能性があるものとして、動物性脂肪、ヘテロサイクリックアミン(肉を高温で調理するとできやすい化学物質)、多環芳香族炭化水素(たかんほうこうぞくたんかすいそ:炭焼きやスモークした食品に多く含まれる化学物質)、ニトロソ化合物(加工食品などに多く含まれる化学物質。また、唾液(だえき)中の亜硝酸(あしょうさん)や亜硝酸塩が、タンパク質に由来する二級アミンという物質と体の中で化学反応を起こすことによってもできる)などが挙げられます。

リスクを下げる可能性があるものとして、食物繊維、大豆、魚、n-3系脂肪酸、カロテノイド、ビタミンB2、B6、葉酸(ようさん)、B12、C、D、E、カルシウム、亜鉛、セレン、非栄養性植物機能成分(例:アリウム化合物、フラボノイド、イソフラボン、リグナン)等が挙げられていて、さらなる研究データの蓄積が求められています。
2007年に、世界がん研究基金(WCRF)と米国がん研究協会(AICR)による同様の評価報告書「食物・栄養・身体活動とがん予防」が、10年ぶりに改訂されました 。その中では牛・豚・羊などの赤肉・加工肉について大腸がんのリスクを“確実”に上げるとし、また、いくつかの食品や栄養素について“可能性大”と判定するなど、より多くのリスクおよび予防要因について考察されています(表2b)。

表2b 食物関連要因とがんとの関連(まとめ)<WCRF/AICR 2007>*

以上に加えて、表には記していませんが、ある種のウイルスや細菌の持続感染も、がんのリスクを上げることがわかっています。B型やC型肝炎ウイルスは肝臓がん、ヒトパピローマウイルスは子宮頸がん、ヒトT細胞性白血病リンパ腫ウイルスは成人T細胞性白血病や悪性リンパ腫の原因ウイルスであることがわかっています。また、ヘリコバクター・ピロリ菌の持続感染は、胃がんのリスクを確実に高くするとIARCによって評価されています。ただし、これらのウイルスや細菌の持続感染者のすべてががんになるわけではありません。なぜある人はがんになり、他の人はならないのか、遺伝的な要因を含めてその違いを知り、感染者のがんリスクを軽減するための方策を見いだす研究が重要です。

さらに、ある種の化学物質、混合物、放射線や紫外線などの物理環境、あるいはホルモン剤や化学療法剤などの薬剤には人への発がん性があることが、職業や環境汚染等により多く暴露した人たちの観察から示されています。これら既知の発がん物質に対しては、排除や暴露量の制限等、法律などにより規制されることが前提になります。しかしながら医療用の放射線や薬剤については、それを用いることによる有益性とのバランスでの判断が必要になります。

4.日本人のためのがん予防法

WHOは、これらの精度が高い科学的証拠によって、“確実”、あるいは“可能性の高い”と評価された要因に基づいて、がん予防のための食事指針を提案しています。(1)成人期での体重維持、(2)定期的な運動の継続、(3)飲酒はしない、(4)中国式塩蔵魚の摂取や塩蔵食品・食塩の摂取は控えめに、(5)アフラトキシンの摂取を最小限に、(6)野菜・果物を少なくとも1日400gとる、(7)ソーセージやサラミなどの加工肉の摂取は控えめに、(8)飲食物を熱い状態でとらない。

また、WCRF/AICRも、2007年に行った評価に基づいて、以下のようながん予防のための食事指針を提案しています。(1)肥満度について:正常な体重の範囲でできるだけやせる、(2)身体活動について:日常生活の中で活動的になる、(3)体重を増やす飲食物について:高カロリー食品や甘い飲み物を制限する、(4)植物性の食事について:植物からできた食品を中心にとる、(5)動物性の食事について:赤肉(牛、豚、羊などの肉)を制限し、加工肉(ソーセージ、サラミ、ベーコン、ハムなど)を避ける、(6)アルコール飲料について:飲酒を制限する、(7)保存・加工・調理について:塩を制限し、カビのはえた穀物や豆類を避ける、(8)サプリメントについて:食事だけで必要な栄養がとれるようにする。また、特定の人に向けて、次の2項目の指針を示しています。(9)授乳期の女性に:母は授乳し、子には母乳を飲ませる、(10)がんになった人に:がん予防のための食生活のアドバイスに従う。この指針においては、確実と評価された要因や複数の部位のがんに効果が期待できる要因が主に取り入れられています。しかしながら、特定の部位のがんとの関連で可能性大と評価されている単一食品や栄養素については、その不確実性とがん全体への効果のインパクトを考慮しており、現段階では、食事指針には取り入れられていません。
一方、日本人のがん予防を考えた場合、国際的にはヒトがんのリスクとして“確実”、あるいは“可能性の高い”と評価されている要因でも、量的な面も含めて日常的に遭遇する可能性の低いものには、特段の注意を払う必要はないでしょう。例えば、日本では心配する必要がほとんどなく、食品衛生法により規制されているアフラトキシンや、食べる習慣のない中国式塩蔵魚の制限は、あえて取り上げる必要はないでしょう。また肥満のみならず、やせすぎもがんのリスクを上げることが、日本人を対象とした大規模コホート研究で示されています。体重維持のための具体的数値目標などは、日本人のデータに基づいた指針づくりが必須になります。

禁煙とWHOやWCRF/AICRなどの食事指針に基づいて、日本人の実情を加味した食習慣改善が、現段階では、個人として最も実行する価値のあるがん予防法といえるでしょう。さらに、感染経路が明らかなウイルスの感染の知識も重要です。現状において推奨できる科学的根拠に基づいた、日本人のためのがん予防法を以下に示します(表3)。この内容は、今後新しい研究の成果が積み重なることで内容が修正されたり、項目が追加あるいは削除されたりする可能性があることが前提となります。なお、各項目についての詳しい解説は国立がん研究センターがん予防・検診研究センター予防研究部の「生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究」ホームページの「日本人のためのがん予防法」でご覧になれます。

表3 日本人のためのがん予防法

日本人のためのがん予防法
―現状において日本人に推奨できる科学的根拠に基づいたがん予防法―

1)各項目概説

喫煙ががん・循環器疾患をはじめとした疾患のリスクを上げることはよく知られています。禁煙の方法については、厚生労働科学研究費補助金(第3次対がん総合戦略研究事業)「効果的な禁煙支援法の開発と普及のための制度化に関する研究」班(研究代表者 中村正和)で作成された、「脱メタバコ支援マニュアル」が参考になります。また、吸っている本人だけでなく、周囲にも健康被害をもたらしますので、注意が必要です。

ある程度の量の飲酒は大腸がんをはじめとしたがんのリスクを上げる一方で、心筋梗塞(しんきんこうそく)や脳梗塞のリスクを下げる効果があることが知られています。従って、節度のある飲酒が大切です。飲む場合は1日当たりアルコール量(純エタノール量)に換算して約23g程度(日本酒なら1合、ビールなら大瓶1本、焼酎や泡盛なら1合の2/3、ウイスキーやブランデーならダブル1杯、ワインならボトル1/3程度)の量にとどめるのがよいでしょう。飲まない人や飲めない人の飲酒は勧めません。また、健康日本21では、「節度ある飲酒」として約20g程度までを勧めています。

食事については、これをとっていれば確実にがんを予防できるという単一の食品、栄養素は、現在のところわかっていません。また、とりすぎるとがんのリスクを上げる可能性がある食品中の成分、あるいは調理、保存の過程で生成される化学物質等があります。従って、そのようなリスクを分散させるためにも、偏りなくバランスの良い食事をとることが原則になります。
中でも、塩分の摂取量を抑えることは、日本人で最も多い胃がん予防に有効であるのみならず、高血圧を予防し、循環器疾患のリスクの減少にもつながるでしょう。1日当たりの食塩摂取量としてはできるだけ少なくすることが望まれますが、厚生労働省は日本人の食事摂取基準として、男性は9g未満、女性は7.5g未満を1日当たりの目標値として設定しています(厚生労働省策定 日本人の食事摂取基準 2010年版)。また、脳卒中や心筋梗塞等をはじめとする生活習慣病全体にも目を向けますと、野菜・果物を毎日とることが勧められます。健康日本21では、1日当たり野菜を350gとることを目標としています。
果物もあわせた目安としては、野菜を小鉢で5皿分と果物1皿分を毎日食べる 心掛けで、400g程度になります。また、飲食物を熱い状態でとることが食道の 炎症やがんを引き起こす可能性がありますので、これらの食品はとり過ぎないようにすることが大切です。さらに、ハム・ソーセージ・ベーコンなどの加工肉や牛・豚・羊などの赤肉(鶏肉は含まない)は大腸がんのリスクを上げることが国際的に知られています。国際的な基準では赤肉の摂取は1週間に500gを超えないようにすすめています。

身体活動が高いと、がんのみならず心疾患の死亡のリスクも低くなることから、死亡全体のリスクも低くなることが知られています。身体活動量を保つことは、健康で長生きするための鍵になりそうです。厚生労働省は「健康づくりのための運動指針2006」の中で、週に23エクササイズ以上の活発な身体活動(生活活動・運動)を行い、そのうち4エクササイズ以上の活発な運動を行うことを目標としています。1エクササイズに相当する活発な身体活動とは、生活活動としては、20分の歩行、15分の自転車や子どもとの遊び、10分の階段昇降、7~8分の重い荷物運び、また、運動としては、20分の軽い筋力トレーニング、15分の速歩やゴルフ、10分の軽いジョギングやエアロビクス、7~8分のランニングや水泳などが該当します。

肥満とがん全体との関係は、欧米とは異なり、日本人においてはそれほど強い関連がないことが示されています。むしろ、やせによる栄養不足は免疫力を弱めて感染症を引き起こしたり、血管を構成する壁がもろくなり、脳出血を起こしやすくしたりすることも知られています。その一方、糖尿病、高血圧、高脂血症等、やせればやせる程リスクが低下する病気もありますので、このような疾患のある人は、その治療の一貫として、太っていればやせることが効果的でしょう。

B型・C型肝炎ウイルスは、主に血液や体液を介して感染します。出産時の母子感染、輸血や血液製剤の使用、まだ感染リスクが明らかでなかった時代の医療行為による感染ルートが考えられています。その他、医療従事者は肝炎ウイルスに感染している人の血液が付着した針を誤って刺した場合に感染する恐れがあります。現在中高年の方は、輸血や血液製剤の使用などに思い当たることがなくても、昔受けた医療行為などによって、知らないうちに感染している可能性もありますので、地域の保健所や医療機関で、1度は肝炎ウイルスの検査を受けることが重要です(検査の日時や費用は各施設によって異なります)。もし陽性であればさらに詳しい検査が必要ですので、ウイルス駆除や肝臓の炎症を抑える治療、あるいは肝臓がんの早期発見のために、肝臓の専門医を受診してください。B型肝炎ウイルスの母子感染は産科で予防が可能です。

肝炎ウイルスについてもっと詳しく知りたい方は→「厚生労働省>健康>感染症情報>肝炎について」を参考にするとよいでしょう。

そのほかにもがんとの関連が示唆されているウイルスや細菌にヒトパピローマウイルスと子宮頸がん、ヘリコバクター・ピロリ菌と胃がんがあります。子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルスは、性交渉により感染することが知られています。なるべく感染を避けるには、性病予防と同様な心掛けが必要です。ただし、それで完全に感染を予防できるわけではありませんので、感染や症状の有無にかかわらず定期的にがん検診を受ける、禁煙するなどの配慮が必要でしょう。また、ピロリ菌については胃がんとの関連を示す研究が多くありますが、日本人中高年の感染率は非常に高く、除菌療法で将来の胃がんリスクが低くなるのかどうか検討されている段階です。現段階では、感染の有無にかかわらず、禁煙する、塩や高塩分食品のとり過ぎに注意する、野菜・果物が不足しないようにするなどの配慮が必要でしょう。また、特に、感染していることがわかっていれば、定期的な胃の検診を受けることを勧めます。

 

5.がん予防法を利用するために

がん予防法を有効に利用するには、予備知識がいくつか必要です。まず、食品や栄養素の摂取量と発がんリスクとの関係は、必ずしも単純には考えられないことがわかっています。量が増えるほど効果が上がるとは限らないのです。ある量を超えると効果が表れ始めたり、消えてしまったり、あるいは逆転してしまったりすることさえあるのです。日本人のためのがん予防法に掲げた6項目は日本人を対象とした研究に基づいた、科学的根拠の明らかなものですが、数値目標として挙げた値はがんのみならず広く生活習慣全体をも考慮し、逆効果の可能性や、既存の指針などの情報も加味して総合的な判断のもとに設定したものです。がんは多数の要因が複雑に折り重なって長い時間をかけて発生してくるものであり、1つの要因のある値を境に急にがんのリスクが上がったり下がったりすることはむしろまれでしょう。従って、この目標値より少しでもはずれたら意味がないというものでもありません。がん予防法を具体的に実践に移すための手掛かりとして、ひとつの目安とお考えください。

また、欧米の研究だけに基づく情報の場合には、日本人ではリスクやその意味合いが変わる可能性があります。例えば、日本人ではかかりやすいがんの種類が違ったり、肥満の割合が少なかったりという特徴があり、そのことを踏まえた上で、日本人ではどうなのかを解釈する必要があります。

もうひとつ気を付けなくてはならないのは、特定のがんを予防するための生活習慣が、必ずしも健康的とはいえないという点です。例えば、肥満に関連するがんや糖尿病を予防するにはやせればやせるほど効果的ですが、やせ過ぎてその他の部位のがんや感染症のリスクが高くならないよう、バランスを取る必要があります。最近では、紫外線に関連する白人に多い皮膚がんを恐れて極端に日光を避けていると、体内でビタミンDがつくられにくくなり、大腸がんのリスクが高くなるという仮説もあります。がん予防のための予防戦略は、総合的な健康と一人一人の生活習慣とのかねあいの中で、あらためてその位置づけを問い直さなくてはなりません。

現段階では、研究の進んだ欧米のデータからの情報が先行していますが、日本でも現在、がん予防のために有用であろうと思われる科学的根拠が蓄積されつつあります。がんをはじめとする生活習慣病予防のための、厚生労働省研究班による多目的コホート研究 (JPHC Study) 、文部科学省科学研究費によるJACC Study、宮城県コホート研究 、高山コホート研究、三府県コホート研究、広島・長崎原爆被爆者コホート研究という、いずれも大規模で長期的な研究が実施され、結果が集積されつつあります。

さらに、日本人を対象に実施された研究の結果を網羅し、あらためてリスク要因とがんとの関連やリスクの大きさを評価する、「生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究」も実施されています。


生労働科学第3次対がん10か年総合戦略研究事業「生活習慣改善によるがん予防法の開発に関する研究」研究班作成

独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター「がん情報サービス」