多発性骨髄腫の新しい薬|たはつせいこつずいしゅのあたらしいくすり

1.はじめに

多発性骨髄腫は、2006年の時点では治癒が困難とされているがんであり、病気が進行してしまうと、通常の抗がん剤治療だけでは病勢のコントロールが難しくなってきます。しかしここ数年、抗がん剤やステロイドを使った従来の治療とは全く違う治療薬(=新規薬剤)が登場し、難治例や再発例に対して優れた治療効果が報告されています。また最近になって、初期治療時にも(最初に診断されてはじめて治療を行うときから)新規薬剤を使用することによって、寛解に達する率や予後が改善するというデータが欧米より報告されています。その一方で、早い時期から新規薬剤を使用すると、末梢神経障害(手足のしびれや、進行すると筋力低下も来す)などの副作用の程度や頻度が増すことも懸念されます。サリドマイドは以前、因果関係が十分に周知されていないころに妊婦が服用し、器官形成に重篤(じゅうとく)な影響を受けた赤ちゃんの誕生に至ったり、死産に至ったという報告がされました。十分な薬の管理が必須なことはいうまでもありません。さらに、2006年の時点では国の認可が得られず、未承認薬に位置づけられているので、患者さんが内服する際には多大な経済的負担になってしまいます。

以上のことから、主治医との十分な話し合いのうえで適応を決定し、個々の患者さんの病気の状態に合わせて使用することが重要です。ここでは近い将来、わが国でも認可が下りて、治療効果が期待できる新規治療薬の最近の治療成績をまとめます。その治療薬とは、サリドマイドおよびその誘導体(化学構造式を変化させることによってつくられた薬剤)であるレナリドマイド(商品名:レブリミッド)、ならびにボルテゾミブ(商品名:ベルケイド)の3つです。

 

2.サリドマイド

服部 豊 臨床血液44巻5号302-312、2003年

サリドマイドおよび誘導体の抗骨髄腫作用のメカニズム

サリドマイドおよび誘導体の抗骨髄腫作用のメカニズム

 

1998年に米国から、サリドマイドが多発性骨髄腫に対する治療薬として有効であることがはじめて報告されました。その後、国内外よりこれを支持する研究成果が報告されています。なぜ、サリドマイドが骨髄腫に有効であるかという理由は、まだ明確にされていません。サリドマイドの代謝産物が骨髄腫細胞に直接ダメージを与えたり、骨髄腫細胞に栄養を送っている血管の発育を抑えたりすること等により、骨髄腫に対して効果があるとされました。これら以外にも、骨髄腫細胞が殖えるのに必要な因子(増殖因子)の産生を抑えたり、骨髄腫が骨髄内で殖えやすくなっている環境自体を是正する可能性が報告されたりなど、なぜ骨髄腫に有効であるかに関し、多くの機序が推測されるに至っています(図1)。

難治・再発に対する有効性の報告が、国内外から数多く発表されています。有効例では、服用を開始してから2~8週たって、M蛋白(えむたんぱく)が徐々に低下します。いずれの報告においても、部分寛解(M蛋白が50%以上減少)到達率は約30%で、中にはまれに完全寛解(M蛋白が消失)に到達する患者さんもいます。有効例では、貧血、腎機能障害、骨痛等の合併症の改善を認めることもあります。さらに、サリドマイド単剤が無効であっても、デキサメタゾンや化学療法と併用することによって相乗効果が期待され、50%近い患者さんに部分寛解が得られると報告されています。
副作用について、眠気、便秘、口渇は頻度が高く、投与開始数日後から出現します。投与前から輸血が必要であったり白血球数が低い症例では、重篤な好中球減少症にも注意が必要です。また、3ヵ月を超えて投与を継続すると、末梢神経障害が出現します。これは、手足の指先からしびれが広がり、ひどい場合は筋力低下を来すこともあります。1年以上服用すると100%近い患者さんに出現し、その一部は不可逆性で、薬を止めても長期に症状が持続する場合もあるとされています。病期の進行を防ぐためには服用を継続せざるを得ないのですが、しびれによる不快感が強かったり、細かい作業ができないなど、日常生活に支障が出る場合は投与量を減らすか、それでも改善しない場合には投与を中止する必要があります。一方、欧米で報告が相次いだ深部静脈血栓症(しんぶじょうみゃくけっせんしょう:血管内に血のかたまりができ、痛みなどの強い症状が出現するものです。例えば、肺の血管が詰まればいわゆるエコノミークラス症候群を来し、呼吸不全に陥る場合もあります)は、日本人には発生頻度は低いようです。しかし、依然として注意は必要です。

参考までに、慶應義塾大学で61人の患者さんに投与した際の有害事象(薬との因果関係が濃厚ないわゆる副作用に加えて、薬との関連は薄いが患者さんにとって好ましくない症状も含む)のうち、頻度の高いものを表1に示します。なお、患者さんによって副作用の種類や程度は千差万別です。主治医とよく相談しましょう。

有害事象
治療を受けた
患者さんの数
(%)
grade3以上
の重篤例
 眠気 49
(80%)
 便秘 36
(59%)
 口渇 35
(57%)
 末梢神経障害 33
(54%)
1(2%)
 皮疹
33
(54%)
 発熱
19
(31%)
 好中球減少症
15
(25%) 14(23%)
 振戦
14
(23%)
 感染
12 (20%)
12(20%)
 血小板減少症
10
(16%)
7(11%)
 めまい・ふらつき
(15%)
1(2%)
 倦怠

(15%)
 消化器症状

(10%)
1(2%)
 頭痛

(10%)

頻度10%以上のもののみ記載

 

3.レナリドマイド

サリドマイドの抗骨髄腫作用を増強し、かつ催奇形性(さいきけいせい:妊娠中に服用すると、胎児の器官形成に影響し、奇形が生じる危険性があること)や副作用を軽減することを目的に、誘導体の開発が進められてきました。その中でも、レナリドマイドは抗骨髄腫作用が最も詳しく検討され、米国では2006年に食品医薬品局(FDA)から認可されています。近年、米国とヨーロッパで難治・再発性の骨髄腫の患者さんを対象に、レナリドマイド+デキサメタゾンの併用グループと、デキサメタゾン単独グループを比較する2つの大規模な臨床試験が行われました(表2)。両臨床試験では、いずれもレナリドマイド+デキサメタゾン併用グループが反応率約60%で、病勢再燃までの期間延長は50~60週と有意に優れていることがわかりました。その一方で、レナリドマイド+デキサメタゾン併用群では重篤な血球減少および倦怠(けんたい)が多く、心配された深部静脈血栓症も併用グループで8.5%、デキサメタゾン単独グループでは4.5%と増加する傾向が認められました。このように、難治・再発患者さんに対するレナリドマイドの有効性が確認され、サリドマイドで問題となった末梢神経障害、便秘、眠気といった副作用は著明に減少しました。その一方で、重篤な血球減少症を来すことがある点も明らかになったため、定期的に末梢血検査をする必要があります。

表2 難治・再発性骨髄腫に対するレナリマイド第3相試験

米国からの報告 ヨーロッパからの報告
レナリドマイド
+
デキサメタゾン
デキサメタゾン レナリドマイド
+
デキサメタゾン
デキサメタゾン
治療を受けた患者さんの数 171 171 176 175
部分寛解率 61% 23% 58% 22%
完全寛解率 27% 4% 14% 4%
再発までの期間 60週 21週 53週 21週

 

4.ボルテゾミブ

プロテアソームという細胞内器官で、骨髄腫細胞の増殖を抑制する物質が分解されるのを阻害することから、ボルテゾミブはプロテアソーム阻害剤と呼ばれています。ボルテゾミブは注射薬で、2週で4回の静脈注射を3~5週ごとに繰り返します。近年、難治性骨髄腫に対するボルテゾミブの有効性に関する報告が数多く発表されています。その中でも2005年に、欧米の多施設共同の臨床試験(APEX)の成績が報告されています。再発した骨髄腫患者さん669人を対象に、ボルテゾミブ投与グループとデキサメタゾン投与グループに分けて検討したところ、奏効率は前者が38%、後者が18%で、前者の6%の患者さんに完全寛解が認められました。また、再発までの期間や生存期間についてもボルテゾミブ使用グループが優れていて、骨髄腫治療の中心となるステロイド療法と比較しても、優れていることが示されました。その一方で、ボルテゾミブ使用例の75%に重篤な(グレード3以上の)有害事象が認められました。その内訳は、(1)血小板減少症(30%)、好中球減少症(14%)、貧血(10%)といった造血器障害、(2)末梢神経障害(8%)、(3)下痢(7%)などの消化器症状、(4)倦怠や息苦しさ(いずれも6%)といった全身症状が主なものです。なお、日本人の患者さんに投与した際に、海外ではほとんど報告のなかった重篤な呼吸器合併症が認められています。日本臨床血液学会の調査では、個人輸入によってボルテゾミブを使用した52例のうち、9例(17%)に呼吸器障害が発生したと報告されています。

ただし、呼吸器障害が発症した症例はほとんどの場合、抗がん剤投与の期間が長かったり、造血幹細胞移植後の薬物療法後の増悪症例であったり、サリドマイドでも十分な効果が得られなかった症例等でした。ボルテゾミブを投与する前の多彩な治療歴が、呼吸器障害の発生する誘因ないし背景となっている可能性も否定できません。また、このような時期の骨髄腫に対し、ボルテゾミブ以外の骨髄腫に対して抗がん剤を投与した場合でも、ときに呼吸器障害が発生することも知られています。あるいは抗がん剤を投与しなくても、骨髄腫自体の合併症として、ときに多様な機序を介して呼吸器障害が発生することも知られています。これらを考慮すると、ボルテゾミブ投与が呼吸器障害の直接的な原因であるか否かに関しては、まだ不明な点が少なくないと思われます。東アジアでは、日本に先がけて韓国や台湾ですでに多数例で使用されはじめています。これらの国で同様に呼吸器合併症が多いとの報告は、2006年時点ではありません。この点から、日本人を含む東洋人に呼吸器障害が高い頻度で発生するか否か、今後、慎重に検討するべき課題と考えられます。また今回、ボルテゾミブ承認のための治験が52例進行中でした。正規の治験では、全身状態が不良の状況ではボルテゾミブを投与できません。しかし、呼吸器障害の頻度が増加した背景には、ボルテゾミブの効果を期待し、52例の中にそうした症例が少なからず含まれていたという可能性を否定できません。

いずれにしても、今回の成績をみると、ほかの治療では効果が得られずボルテゾミブを選択する際には、呼吸器障害に関する十分な注意が必要です。日本血液学会専門医とともに、重篤な呼吸器障害発症に対する十分な対応ができる設備があり、血液疾患を専門とする医師が常駐している医療機関で、本薬剤の投与が行われることが望まれます。

こうした呼吸器障害の問題点は存在するものの、ボルテゾミブは従来の骨髄腫治療薬を用いてもコントロール困難とされたタイプの骨髄腫にも、一定の効果を示すことが明らかになってきています。

第13番染色体異常を有していたり、髄外に形質細胞腫を形成する患者さんは、自家末梢血幹細胞移植やサリドマイド療法を行っても予後が悪いとされています。しかしボルテゾミブは、このようないわゆる予後不良グループにも良好な反応性を示すことがわかってきていて、実際に予後改善に寄与するかどうか検討が進められています。さらに2005年になると、初期治療にボルテゾミブを組み込むことによって、高い寛解導入効率が得られると報告されています。例えばイギリスからの報告では、ボルテゾミブ+ドキソルビシン+デキサメタゾン投与によって寛解導入率は95%、完全寛解も24%の患者さんに認められました。今後は、初回治療にもボルテゾミブを併用することによって、寛解導入効率を高めるだけでなく、生存期間をどこまで延長できるかが重要課題と考えられます。

 

5.わが国におけるサリドマイド使用の安全体制

図2 サリドマイドの管理体制

サリドマイドの管理体制

サリドマイドの管理体制

サリドマイドは催奇形性を有し、以前に重篤な薬害を起こした経緯があります。間違って妊婦さんが服用することが絶対にないよう、十分な安全管理を行う必要があります。特に同薬は経口薬であり、患者さんが自宅に持ち帰って服用することが多いため、患者さんおよび同居する方の安全管理への協力は不可欠です。そこで、安全管理の具体策を示す必要があるのではないかとの社会の要請がありました。これを受けて厚生労働省は日本臨床血液学会に委託し、日本血液学会の協力も得てサリドマイド使用のガイドラインを作成、2004年に発表しました。これには、サリドマイド福祉センター「いしずえ」や骨髄腫患者の会の方々からも、貴重な助言がありました。

重要点は以下となります。

がん情報サービス

http://ganjoho.jp/