成人T細胞白血病リンパ腫|せいじんてぃーさいぼうはっけつびょうりんぱしゅ

1.成人T細胞白血病リンパ腫(“ATLL”あるいは“ATL”と呼ばれます)とは

1977年に京都大学の内山医師、高月医師らによって日本ではじめて報告された疾患です。他の悪性リンパ腫や白血病と大きく異なるのは、このがんは、ヒトTリンパ向性ウイルス1型(Human T-lymphotropic Virus Type I:“HTLV-1”)によって引き起こされることです。主に西南日本に多く、リンパ節腫脹(しゅちょう)、肝脾腫大(かんひしゅだい)、皮膚病変、高カルシウム血症を特徴とします。悪性リンパ腫の一種ですが、大部分が白血病化するために、成人T細胞白血病(Adult T-cell Leukemia:ATL)と呼ばれたり、成人T細胞白血病リンパ腫(Adult T-cell Leukemia/Lymphoma:ATLL)と呼ばれたりします。

 

2.成人T細胞白血病リンパ腫の特徴

日本では120万人、世界では1,000~2,000万人のヒトTリンパ向性ウイルス1型(HTLV-1)キャリア(HTLV-1の症状はないが、ウイルスを体の中に持っている状態の方)がいると推定されています。成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)の発症は、HTLV-1キャリアの分布と一致することが知られています。日本では、九州を中心とした西南日本、紀伊半島、三陸海岸、北海道などに多く、世界的にはカリブ海沿岸地域、南米アンデス地域、中近東、アフリカなどで多くみられます。しかし、東京や大阪では比率は低いものの、実際には、人数にするとかなりの数のキャリアとATLLの患者さんが存在しています。

末梢血液中に出現するATLL細胞は、特徴的な花びらのような形状をした核を有し、「花細胞」(図1)と呼ばれています。免疫担当細胞として重要なT細胞ががん化したもので、強い免疫不全を示します。そのため、感染症にかかりやすくなり、真菌、原虫、寄生虫、ウイルスなどによる日和見感染症(ひよりみかんせんしょう)を高頻度に合併します。

ATLL細胞は、抗がん剤が最初から効きにくかったり、途中から効きにくくなったりする性質があり、化学療法にしばしば抵抗性を示します。また寛解(見かけ上病気が良くなること)が得られたとしても、再発率は非常に高いことが知られています。ATLLに伴う免疫不全に加えて、抗がん剤が効きにくいことから、ATLLの予後(治療後の経過)は現在でも極めて不良です。

最近、ATLLに対する同種造血幹細胞移植の有効性が発表され、ATLLの予後の改善に大きく貢献することが期待されています。さらに、種々の抗体療法や分子標的薬剤などの新薬の臨床応用もはじまろうとしています。

 

3.ATLLの症状と検査結果

全身のリンパ節が腫(は)れたり、肝臓や脾臓(ひぞう)の腫大、皮膚紅斑(ひふこうはん)や皮下腫瘤(ひかしゅりゅう)などの皮膚病変、下痢や腹痛などの消化器症状がしばしばみられます。成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)の病勢の悪化によって血液中のカルシウム値が上昇(高カルシウム血症)すると、全身倦怠感(けんたいかん)、便秘、意識障害等を起こします。また、免疫能低下により、いわゆる日和見感染症を高頻度に合併します。細菌感染症のみではなく、ニューモシスチス肺炎、クリプトコッカス肺炎・髄膜炎、全身のカンジダ症やアスペルギルス症などの真菌感染症、サイトメガロウイルス肺炎・網膜炎・消化管感染症、汎発性帯状疱疹(はんぱつせいたいじょうほうしん)などのウイルス感染症、糞線虫(ふんせんちゅう)症などの寄生虫感染症等が高頻度に見られます。

貧血、血小板減少は急性白血病に比べて軽度ですが、白血病化した場合は、白血球数がさまざまな程度に増加します。血清LDH上昇は非常によくみられ、血清カルシウム値や腫瘍マーカーである可溶性インターロイキン-2レセプターの増加もみられます。その他、肝機能障害や低蛋白血症(ていたんぱくけっしょう)も高頻度にみられます。腹部超音波検査やCT検査では肝脾腫大、腹腔内(ふくくうない)リンパ節腫大、腹水等がみられることが多く、ATLL細胞の消化管浸潤(しんじゅん)例では、X線検査や内視鏡検査でびらん、潰瘍(かいよう)などの粘膜異常や腫瘤形成(しゅりゅうけいせい)などがみられます。

 

4.治療の一般的な流れ

1)ATLLそのものに対する治療
成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)の治療方針を、図3に示します。ATLL診断後、ATLLの臨床病型を正確に診断して、治療方針を決定する必要があります。くすぶり型と、予後不良因子を有しない慢性型は、ATLLそのものに対しては経過観察とし、日和見感染症などの合併症に対しては抗生剤などによる補助治療が必要です。くすぶり型に分類されるものの中に皮膚型ATLLと呼ばれるタイプが存在し、皮膚科的治療の対象となります。慢性型の予後不良因子とされている尿素窒素(BUN)の上昇、LDHの上昇、低アルブミン値のいずれかを有する場合は、抗がん剤治療(化学療法)を行ったほうが良いと考えられます。急性型、リン
パ腫型と診断される場合は、ほとんどの場合に急速進行するため、速やかに入院にて化学療法を行う必要があります。

(1)皮膚科的治療と抗がん剤治療
皮膚型成人T細胞白血病リンパ腫(皮膚型ATLL)は、皮膚紅斑丘疹(ひふこうはんきゅうしん)型、皮膚腫瘤(ひふしゅりゅう)型に分けられます。紅斑丘疹型はくすぶり型ATLL、腫瘤型はリンパ腫型ATLLにそれぞれ類似した病型であり、後者の予後もリンパ腫型とほぼ似ているとされています。皮膚紅斑丘疹型ATLLの治療は、副腎皮質ステロイドホルモン軟膏の塗布(とふ)、紫外線治療、電子線治療、放射線治療、インターフェロン投与等です。一方、皮膚腫瘤型ATLLは、急性型、リンパ腫型ATLLと同じような、強力な化学療法の治療対象となります。

(2)造血幹細胞移植

  1. 自家造血幹細胞移植
    成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)に対する自家造血幹細胞移植は、移植後の再発や感染症の合併が多いために、ほとんどうまくはいきませんでした。移植細胞に混入するATLL細胞が再発に関係することが考えられたため、移植細胞からATLL細胞を取り除いたり、あるいは造血幹細胞のみを選択した移植も試みられました。しかし、治療成績の改善は得られませんでした。現時点では、ATLLに対する自家造血幹細胞移植の有用性は低いとされています。
  2. 同種造血幹細胞移植
    九州血液疾患治療研究(K-HOT)グループでは、ATLLに対する同種造血幹細胞移植の治療対象(適応)について、アンケート調査を実施しました。解析した結果を表8にまとめました。ATLLの臨床病型は急性型およびリンパ腫型で、治療後の病気の状態としては、「完全寛解」、「部分寛解」、「病勢の安定している非寛解」の患者さんを同種移植の対象とすべきという意見が大半を占めました。ATLLの病勢がコントロールできない増悪例の場合の同種移植は、拒絶反応や合併症の頻度が高くなるため実施が非常に困難です。HLAの一致度については、血縁、非血縁ともに完全一致が望ましいとされています。最も重要な年齢については、骨髄破壊的同種移植の場合は55歳までが対象となり、骨髄非破壊的同種移植(“ミニ移植”)では50~70歳までを対象とすることが可能です。しかし実際は、年齢が65歳を超えると移植合併症が増加するばかりでなく、ドナーの方の健康上の理由などからも、兄弟間でHLA一致のドナー候補者を得ることが困難です。また、50~55歳までの場合は、骨髄破壊的移植がよいか、あるいは骨髄非破壊的移植がよいかについての結論は出ていません。

最近、成人に対する臍帯血(さいたいけつ)移植の実施例が急速に増加していますが、ATLLに対する臍帯血移植の成績はほとんど報告がありません。

表8 ATLLの同種造血幹細胞移植の適応

1. 適応年齢骨髄破壊的移植:55歳未満

骨髄非破壊的移植:50歳/55歳以上70歳未満

2. 臨床病型急性型・リンパ腫型
3. 寛解状態完全寛解・部分寛解・病勢の安定している非寛解
4. ドナーについて血縁・非血縁ともにHLA完全一致もしくは1座不一致
5. 移植時期化学療法開始後6ヵ月以内
6. 臍帯血移植・不一致移植・子母間移植血縁・非血縁のHLA一致のドナーがいない場合や時間的に間に合わない場合

 

(3)分子標的治療
抗CD25抗体(抗Tac抗体)や、抗CD52抗体(Campath 1H)などの報告がありますが、まとまった治療成績の報告はみられず、有効性もはっきりしていません。

2)合併症に対する治療
(1)高カルシウム血症
成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)の進行に伴い、高カルシウム血症がしばしば合併します。これは、がん細胞から産生される骨吸収促進因子が関与するとされています。治療としては、ビスホスホネート製剤の投与、大量の補液、利尿剤、カルシトニン製剤の投与を行います。また、ATLLの増殖を抑えるために、抗がん剤を用いた化学療法が同時に必要です。

(2)日和見感染症
細菌感染症のみでなく、日和見感染症と呼ばれる真菌(カビ)感染症、ウイルス感染症、原虫や寄生虫感染症等が高頻度にみられます。これを防ぐことがとても重要になります。

 

5.予後

成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)に対して、化学療法のみの治療成績では完全寛解率は16~41%、生存期間中央値は3~13ヵ月であり、その予後は依然極めて不良です。ただ最近になって、同種造血幹細胞移植によって、ATLLの治癒も期待できるようになりました。高齢の患者さんや造血幹細胞移植の対象でない場合においても、化学療法と分子標的薬剤の組み合わせによって今後徐々にではありますが、確実に改善すると期待されています。

 

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