慢性リンパ性白血病・小細胞性リンパ腫|まんせいりんぱせいはっけつびょう・しょうさいぼうせいりんぱしゅ

1.慢性リンパ性白血病・小細胞性リンパ腫

慢性リンパ性白血病と小細胞性リンパ腫は、リンパ球ががん化して生じる疾患です。この2つの疾患は、腫れたリンパ節を切除し、顕微鏡で組織を観察しても病理学的な差異はみられません。両者とも同じようにB細胞性のリンパ球の特徴を持ち、細胞表面蛋白(たんぱく)の1つであるCD5が陽性であるために、がん細胞の性質から分類すれば同一の疾患であると考えられています。

白血病細胞(がん細胞)は寿命の長い成熟した小型のリンパ球であり、リンパ節や骨髄、血液中で増加します。病変の広がりにより、リンパ節が病変の主体であれば“小細胞性リンパ腫”、血液中のリンパ球増加が主体であれば“慢性リンパ性白血病”と診断されます。両疾患を厳密に区別する境界は特に設定されていませんが、米国国立がん研究所のグループのガイドラインでは、血液中のリンパ球の数が5,000/mm3(1mm3あたり5,000個。正常値は1,500~4,000/mm3、施設により正常値の範囲は若干異なります)以上の場合は、慢性リンパ性白血病とされています。しかし通常は、両疾患とも慢性リンパ性白血病として診断されることが多いので、慢性リンパ性白血病に関して述べます。

 

2.病因・疫学

慢性リンパ性白血病は、欧米では全白血病の約30%を占める最も頻度の高い白血病ですが、わが国では極めてまれな疾患で、欧米の約1/10の頻度にすぎません。わが国での発症率は、年間10万人に0.3人前後です。発症原因はまだ不明ですが、放射線の暴露(ばくろ)や化学物質、アルキル化剤(抗がん剤の一種)、あるいはウイルスとの関連はないとされています。米国へ移住した日本人にも頻度が低いために、環境的な因子よりも、遺伝的な素因の関与が推測されています。発症は50歳以後の中高年に多く、30歳未満の若い方にはほとんどみられない疾患で、女性より男性に多いのが特徴です。

 

3.臨床症状

発症は緩(ゆる)やかで非常にゆっくりした経過をとるため、初期の段階ではほとんど自覚症状はありません。そのために、診断される患者さんの少なくとも1/4は、定期健康診断や他の病気の検査で、白血球の増加をきっかけに偶然発見されています。自覚症状がない状態で発見されてから、症状が出現するまで平均で4年かかるといわれています。一部に進行が早く生存期間が1年未満の方もいますが、10年から20年と長い経過をとることが多く、患者さんによって経過は異なります。

症状としては、初期のうちは倦怠感(けんたいかん)が最も多く、食欲不振、寝汗を伴う微熱、体重減少もよくみられます。発熱や肺炎などの感染の症状が、最初に出ることもあります。しかし多くの患者さんは、リンパ節の腫脹(しゅちょう)を訴えて病院を受診しています。リンパ節の腫脹は痛みはありませんが、硬く、大きさは鶏卵大に及ぶこともあります。周囲の組織との癒着はほとんどありません。場所は、頸部(けいぶ)と鎖骨上のリンパ節が最も多く、腋(わき)の下や足の付け根のリンパ節の腫脹もよくみられます。脾臓の腫大は約75%の患者さんにみられますが、巨大になることはまれです。肝臓も、軽度の腫大が約25%の方にみられます。

慢性リンパ性白血病では、他の白血病に比べて皮膚病変が多いことが特徴です。白血病細胞の直接の浸潤(しんじゅん)によるものと、浸潤を伴わない非特異的なものがあります。丘疹(きゅうしん)や水泡等さまざまな皮膚症状がみられ、頑固なかゆみを伴うものもあります。蚊などの虫刺されに対して、過敏な反応を示すことも知られています。帯状疱疹(たいじょうほうしん)もしばしばみられ、全身に広がりやすい傾向があります。

白血病細胞が涙腺や耳下腺、顎下腺(がっかせん)などの唾液腺で増殖し、上まぶたや耳の下部、下あごが腫脹(しゅちょう)することがあります。そのような状態を“ミクリッツ症候群”と呼んでいます。

骨髄の中で白血病細胞が増加すると正常な造血機能がじゃまされ、貧血や血小板の減少による出血傾向が現れます。貧血により顔色が蒼白(そうはく)になったり、運動時の息切れ、動悸(どうき)等の症状が出たり、出血傾向によって皮膚に内出血ができやすくなります。貧血は約半数の方にみられ、通常は軽度ですが、自己免疫性溶血性貧血を合併すると極めて高度な貧血となることがあります。貧血や血小板減少に関しては、このほかにも赤血球だけが減少する赤芽球癆(せきがきゅうろう)や、自己免疫性血小板減少性紫斑(しはん)病といった、特殊な合併症も起こることが知られています。

長い経過中にはまれですが、急速に病状が変化することがあります。今までみられなかった、前リンパ球と呼ばれる未熟なリンパ球が増加して病状が進行する場合と、病型の異なるびまん性大細胞型リンパ腫を発症する場合があります。特に後者は“リヒター症候群”と呼ばれ、治療が困難です。発症後の生存期間は半数の患者さんが6ヵ月以内と短く、急激な経過をたどることが知られています。急性リンパ性白血病に転化することもあります。

皮膚、肺、消化管などの他のがんを合併しやすいことも知られています。日本人の慢性リンパ性白血病の死因の内訳では、16%の患者さんが併発したがんによるものであったと報告されています。

 

4.診断・検査所見

上記の症状のあるなしにかかわらず、血液検査で白血球増加があり、その白血球の中でリンパ球が5,000/mm3以上を占めていれば慢性リンパ性白血病が疑われます。リンパ球は、B細胞、T細胞、ナチュラルキラー細胞の系列に分かれますので、次に、どの系列の細胞であるかを決定します。慢性リンパ性白血病はB細胞性になります。以前はT細胞性の慢性リンパ性白血病も少数存在するとされていましたが、現在のWHO分類では、慢性リンパ性白血病としては、B細胞によるものしか認めていません。さらに、何らかのウイルス感染などで反応性にリンパ球が増加しているのか、それともがん性に増加している状態なのかを鑑別します。リンパ球の細胞表面に現れた免疫グロブリンの特定の部位に偏(かたよ)りがないか調べたり、あるいは免疫グロブリンの遺伝子を検索することにより、判定することができます。

慢性リンパ性白血病によく似た疾患として、前リンパ球性白血病や有毛細胞性白血病、濾胞(ろほう)性リンパ腫、マントル細胞性リンパ腫の白血化状態等が知られています。これらの疾患とは治療法が異なるために、厳密に鑑別する必要がありますが、鑑別が困難なこともあります。このような場合には、リンパ球の細胞表面や細胞核内に発現している蛋白の詳細な検索、通常の顕微鏡のほかに、電子顕微鏡を使用した細胞の精細な観察を行って鑑別します。

慢性リンパ性白血病では、血液中の白血球数が20,000~200,000/mm3(正常値は4,300~10,000/mm3、施設により正常値の範囲は若干異なります)のことが多く、約1/3の患者さんは100,000/mm3を超えています。

免疫能の異常として約20%の患者さんに自己免疫性溶血性貧血がみられ、“クームス試験”が陽性になります。ツベルクリン反応などの細胞性免疫に関する検査は、しばしば陰性化します。また、種々の感染症に対しても、抗体をつくり出していないことを示すIgG、IgM、IgAなどのガンマグロブリン値の低下もみられ、数%の方にM蛋白という異常な蛋白の存在が現れます。

染色体検査では、6、11、12、13、17番の染色体異常の頻度が高く、それぞれがん遺伝子や、がん抑制遺伝子の異常との関連が推測されています。

慢性リンパ性白血病では、疾患の進行度を判定するための病期分類があります。表1に示すようにRai分類とBinet分類です。いずれも疾患の経過とよく相関することが知られ、広く用いられています。Rai分類、Binet分類の各病期で平均の生存年数が示されていて、どの病期に属しているかで、生存期間を大まかに推定できるようになっています。

表1 慢性リンパ性白血病の病期分類

Rai分類 病期 基準 生存期間(年)
低危険度群 0 末梢血リンパ球数15,000/mm3および骨髄中のリンパ球40%以上 14.5
中間危険度群 I 病期0+リンパ節腫脹 9
II 病期0+脾腫または肝腫大 5
高危険度群 III 病期0+貧血(血色素10g/dlまたはヘマトクリット<33%以上) 2.5
IV 病期0+血小板減少(血小板数<100,000/mm3 2.5
Binet分類 病期 基準 生存期間(年)
A 末梢血リンパ球数4,000/mm3以上および骨髄中のリンパ球40%以上および腫大領域*2ヵ所以内 14
B 病期A+腫大領域*3ヵ所以上 5
C 貧血(血色素<10g/dl)または血小板減少(血小板数<100,000/mm3 2.5
* 頸部、腋窩(えきか)、鼠径部(そけいぶ)のリンパ節、肝、脾(ひ)の5ヵ所のうちで数える

Rozman C, et al: N Engl J Med 1995: 333; 1052-1058

5.治療

慢性リンパ性白血病は最終的には完治の困難な疾患ですが、治療をしなくても、日常生活に特に支障が出ないまま一生を過ごす方もいます。治療は主に症状の改善、生存期間の延長を目的に行われます。病期分類で、Rai分類の低危険度群と中間危険度群、およびBinet分類の病期Aでは経過が長いために、原則として治療は必要ないとされています。これらの病期で治療を開始した患者さんと、病状が進行してから治療を開始した患者さんとの間で、生存期間に差がなかったと報告されていることがその理由です。

いつから治療を開始するかについては、米国国立がん研究所のグループのガイドラインがあります。表2にそのガイドラインを示します。各項目のいずれかが認められれば、治療を開始するべきであるといわれています。

表2 慢性リンパ性白血病の治療開始のガイドライン

(1) 疾患に関連した症状のうち以下の少なくとも1つが認められること
(a) 過去6ヶ月間で10%以上の体重減少
(b) 重篤な倦怠感(仕事不可能、通常の日常生活に支障)
(c) 2週間以上続く38度以上の発熱
(d) 感染症を伴わない寝汗
(2) 骨髄抑制の進行:貧血、血小板減少の出現、進行
(3) ステロイドホルモン治療に抵抗性の自己免疫性溶血性貧血・血小板減少
(4) 左季肋下6cm以上の脾腫あるいは進行性の脾腫
(5) 直径10cm以上のリンパ節腫脹あるいは進行性のリンパ節腫脹
(6) 2ヶ月で50%以上のリンパ球増加あるいは6ヶ月以内の2倍以上のリンパ球
(7) 著しいガンマグロブリン値の低下あるいはM蛋白の出現

Cheson BD, et al: Blood 1996: 87; 4990-4997

しかし最近の研究結果では、以下の検査結果が得られた場合は生存期間が短くなると報告されているため、特にガイドラインの条件を満たさなくても、速やかに治療を開始することを考慮します。

  1. 染色体11番や17番の異常
  2. 免疫グロブリン遺伝子の可変部に変異がない
  3. 白血病細胞質内のZAP-70の発現
  4. リンパ球の倍加時間が12ヵ月未満
  5. 血清β2ミクログロブリン値の上昇
  6. 血清可溶性CD23の上昇
  7. 血清チミジンキナーゼ値の上昇
  8. 白血病細胞表面のCD38の発現

等があげられています。

わが国では慢性リンパ性白血病の治療には、抗がん剤の中のアルキル化剤の1種である、シクロホスファミドの経口薬での治療が行われています。これにドキソルビシンやビンクリスチン等の抗がん剤を併用して、強力な化学療法が行われることもあります。自己免疫性の溶血性貧血、血小板減少を合併した場合は、ステロイドホルモンを投与します。リンパ節腫脹や脾腫に対して、放射線療法が行われることもあります。

最近ではフルダラビンの有効性が報告され、第一選択の治療薬として用いられつつあります。フルダラビンは体内で遺伝子を合成するのに必要な、核酸という物質の一部で、核酸合成を阻害する作用を持ち、プリン体によく似た分子構造をしています。フルダラビン単独の治療で、80%の方に効果があるといわれています。わが国でも貧血、または血小板減少を伴う、慢性リンパ性白血病の治療での使用が保険で認められています。

分子標的薬の抗体療法も注目されています。B細胞性リンパ球の95%以上に発現しているCD52に対する、ヒト化モノクローナル抗体であるアレムツズマブ(キャンパス-1H)が、治療抵抗性の慢性リンパ性白血病に有効です。同じように、B細胞性のリンパ球に発現しているCD20に対する、ヒト化モノクローナル抗体のリツキシマブ(リツキサン)が有効であることも報告され、フルダラビンやシクロホスファミドとの併用での効果が期待されています。

わが国では、慢性リンパ性白血病に対する造血幹細胞移植の報告はほとんどありません。しかし欧米では、若年者の治療抵抗性の慢性リンパ性白血病に対して自家造血幹細胞移植を併用した大量化学療法が試みられ、通常の治療よりも生存期間を延長できることが示されています。しかし、多くの患者さんが再発し、移植後に骨髄異形性症候群を発症する方がいることも報告されています。現在、同種造血幹細胞移植は完治を期待できる唯一の治療法であると考えられていますが、移植の副作用に伴う死亡が40~50%と高いため、まだ、標準的な治療法とはいえません。この移植関連死亡を減らす目的で移植前処置を軽くしたミニ移植も行われていますが、再発がやや多く、通常の同種移植より生存率が上回るかどうか、まだ不明です。今後の結果が期待されます。

 

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