軟部肉腫(成人)|なんぶにくしゅ(せいじん)

1.軟部肉腫(成人)とは

成人の軟部肉腫(あるいは悪性軟部腫瘍)とは、体の軟部組織から発生した悪性腫瘍のことです。軟部組織あるいは軟部とは、体の肺や肝臓などの実質臓器と支持組織である骨や皮膚を除いた筋肉、結合組織(腱)、脂肪、血管、リンパ管、関節、神経を指します。この腫瘍は、手足、体幹(たいかん:胴体)、頭頸部など体のいろいろな部位に発生します。

わが国での発生率は10万人に2人くらいで、まれな腫瘍です。軟部肉腫の種類は多く、30種類以上あり平滑筋肉腫(へいかつきんにくしゅ)、悪性線維性組織球腫(あくせいせんいせいそしききゅうしゅ)および脂肪肉腫(しぼうにくしゅ)の発生率が高く、他に横紋筋肉腫(おうもんきんにくしゅ)、皮膚線維肉腫、血管肉腫、悪性末梢神経鞘腫瘍(あくせいまっしょうしんけいしょうしゅよう)、および線維肉腫などがあります。

悪性線維性組織球腫と平滑筋肉腫は高齢者に、脂肪肉腫と線維肉腫は中~高齢者に、滑膜肉腫と悪性末梢神経鞘腫は若年者に多く発症するようです。横紋筋肉腫は小児の軟部肉腫の大部分を占めています。男女別では男女同数または男性にやや多い腫瘍が多いのですが、平滑筋肉腫、滑膜肉腫などは女性の発生が高い傾向があります。

肉腫の種類により、発生部位に違いがみられます。脂肪肉腫と悪性線維性組織球腫は特に大腿に多く、滑膜肉腫は大きな関節の近くに発生します。平滑筋肉腫は後腹膜(こうふくまく)や腸間膜(ちょうかんまく)に発生することが多く、横紋筋肉腫は頭頸部や膀胱(ぼうこう)の近くに多く発生します。線維肉腫はいろいろな部位に発生しますが、比較的体幹に多くみられます。

軟部肉腫は治療の難しい腫瘍の1つであり、最初の治療の成否により、患者さんの予後(治療による今後の見通し)や治療後の機能に大きな違いが出てきます。したがって、軟部肉腫の治療は早期発見とともに、必ず専門家のいる病院で治療することが大切です。軟部肉腫は種類が多く、確実な診断をするためには腫瘍の一部をとり(生検)、病理組織学的に診断します。この生検は、その後の治療をするにあたって非常に大切な検査で、やはり専門的知識を必要とします。治療としては悪性度の高い肉腫は手術だけではなく、化学療法(抗がん剤)や放射線療法、さらには温熱療法など、さまざまな治療方法を組み合わせた治療(集学的治療)を行います。

 

2.症状

軟部肉腫の大部分は、皮下や筋肉の中にできたこぶのようなものです。症状としては痛みのないしこり(腫瘤:しゅりゅう)や腫れ(腫脹:しゅちょう)ですが、痛みがないために放置されていることも多く、大きな腫瘤になってから受診することもあります。また、大腿など筋肉の厚い場所に発生すると、腫瘤が触れにくいため、大腿全体が大きく腫れたようになっていることもあります。また、手足にできた腫瘍が大きくなると関節が曲がらなくなったり、座ることができなくなったりすることもあります。一部には腫瘍自体に痛みがあったり、腫瘤が大きくなり神経を圧迫して痛みを伴うこともあります。また、皮膚の色が変わったり、潰瘍(かいよう)になることもあります。

 

3.診断

まず、視診と触診を行います。皮膚に治りにくい潰瘍ができている場合、悪性の疑いがあります。また深い場所に発生した腫瘍で硬いものは、悪性の可能性が高くなります。特に大きさが5cmを超える腫瘍は注意が必要です。病理組織診断のために針を刺して組織の一部を取り出して調べること(針生検)もあります。外来で簡単に行える検査ですが、針を刺す位置の問題や、刺したあとに出血して病巣が広がってしまうこともあるので、やはり専門家に任せることが大切です。悪性の疑いがある場合は、腫瘍の性質や広がりを調べるため、CT、MRI、超音波や血管造影などの検査を行います。これらの検査により、腫瘍の形や広がりを詳細かつ立体的につかむことができます。

軟部肉腫は血行性転移しやすく、多くは肺に転移します。腫瘍の種類によっては、まれにリンパ節転移が起こります。転移を調べるためには、胸部、腹部のCT検査を行います。リンパ節転移やそのほかの転移を調べるためには、アイソトープを使った腫瘍シンチグラフィー(RI)などの検査が行われます。さらに、約1cm角の組織を採取(切開生検)して病理組織学的に調べ、腫瘍の種類(組織型)やたちの悪さ(組織学的悪性度:細胞の形や増殖能力から判断します)を診断します。画像診断や病理組織学的検査は治療方針や予後の予測に非常に大切です。

 

4.病期(ステージ)

軟部肉腫は、腫瘍のたちの悪さ(組織学的悪性度)、大きさ(腫瘍径)、腫瘍が発生した部位(表在性、深在性)、肺、リンパ節、ほかの骨などへの転移の有無(遠隔転移)により、各進行度(病期)に分類されます。
この病期をもとに、年齢や全身状態を考慮して最も有効な治療法を決定します(UICC/AJCC がん病期(ステージ)6版 2002)。

低悪性度(G1、2)
病理組織学的に、腫瘍の細胞が正常細胞に似ているもの(高分化(こうぶんか))や正常細胞とはいくらか違いのあるもの(中分化(ちゅうぶんか))

高悪性度(G3、4)
病理組織学的に、腫瘍の細胞が正常細胞と非常に違っているもの(低分化/未分化)

表在性腫瘍
腫瘍が表層筋膜、皮下脂肪組織、皮膚に限局しているもの

深在性腫瘍
腫瘍が表層筋膜より深いところに存在したり、表在性腫瘍が深部に浸潤(しんじゅん)したもの

腫瘍径が5cm以下の腫瘍
T1a:表在性
T1b:深在性

腫瘍径が5cmを超える腫瘍
T2a:表在性
T2b:深在性

N0:所属リンパ節転移を認めない N1:所属リンパ節転移を認める
M0:血行性遠隔転移を認めない M1:血行性遠隔転移を認める

I期
悪性度の低い腫瘍の大きさが5cm以下(T1a、T1b)か、5cmを超える(T2a、T2b)もの。リンパ節転移や遠隔転移はない。

II期
悪性度の高い腫瘍の大きさが5cm以下(T1a、T1b)か、5cmを超え、表在性の(T2a)もの。リンパ節転移や遠隔転移はない。

III期
悪性度の高い腫瘍の大きさが5cmを超え、深在性の(T2b)もの。リンパ節転移や遠隔転移はない。

IV期
所属のリンパ節(N1)や肺などの血行性遠隔転移(M1)を起こしたもの。

 

5.治療

治療には外科療法(手術)、化学療法(抗がん剤)、放射線療法などがあります。外科療法、放射線療法は局所の療法で、化学療法は全身的な治療です。転移があったり転移が疑われたりする場合や、悪性度の高い腫瘍では、全身的な治療が必要です。
温熱療法は、局所療法になります。化学療法との併用効果があるという比較臨床試験が最近海外で発表されていますが、現在安全性などが議論されています。骨軟部腫瘍の治療法として、確立してはいません。
免疫療法は、全身的な治療になります。ミニ移植やインターフェロンの効果や他の治療との併用が議論されているものの、骨軟部腫瘍の治療法として、確立してはいません。

現在、軟部肉腫治療の主体は外科療法ですが、悪性度の高い腫瘍では、化学療法や放射線療法を組み合わせて治療を行うことが大切です。

1)外科療法
腫瘍が発生した局所にとどまっている場合、その局所の腫瘍を除去することができるのは外科療法です。局所で再発しにくい手術を行うためには、腫瘍の性質をよく知って手術を行うことが大切です。腫瘍は徐々に成長するときに、腫瘍の周囲に反応層といわれる膜のようなものをつくります。一見、この膜は腫瘍とは関係ないようですが、この反応層の中にはすでに腫瘍細胞が入り込んでいます。したがって、反応層での切除は高い再発率を招きます。
正しい切除法とは、反応層の外側で周囲の正常組織を十分含めて切除することです(広範切除)。近年、腫瘍を大きく切除した後、再建として別の部位の皮膚、筋肉、骨などを切除部位に持ってきて細い血管を顕微鏡下でつないだり、静脈や人工血管を使って血管を移植したりする技術が進歩してきました。そのため、以前であれば切断するしかなかった患者さんが、手足を残して機能を温存できるようになってきました(患肢温存術)。現在、多くの施設で患肢温存率は90%以上です。ただし、腫瘍が大きくなりすぎて血管や神経が侵され、切断、離断になることもあります。リンパ節転移が疑われる場合は、リンパ節郭清(かくせい)と呼ばれるリンパ節の切除を行います。

2)化学療法(抗がん剤)
抗がん剤を用いて腫瘍細胞を死滅させる方法を、化学療法といいます。静脈から点滴で投与された抗がん剤は、血流に乗って全身に行き渡り腫瘍細胞を死滅させます(全身投与)。また、腫瘍に血液を送っている動脈に直接抗がん剤を注入し、局所の腫瘍を死滅させる方法もあります(動脈内投与)。手術後、再発転移を起こす腫瘍は、いろいろな検査を行っても発見できない小さな転移(微小転移)があると考えられます。このような微小転移を治療するため、術前や術後に抗がん剤の全身投与を行います(補助的化学療法)。手術前に行えば局所の腫瘍が小さくなることも期待できますし、術後に行えば再発転移の防止にもなります。また、肺転移巣やそのほかの転移巣の治療、あるいは手術ができない場合に、化学療法を行うこともあります。

通常、全身投与は数種類の抗がん剤を併用して投与します。従来、化学療法は副作用が強く、つらい治療の1つでしたが、最近は副作用を軽減する新しい薬剤やいろいろな支持療法が行われて、小児から高齢者まで広く行うことができるようになっています。

3)放射線療法
腫瘍細胞を死滅させ、腫瘍を小さくするために行います。しかし軟部肉腫は放射線療法が比較的効きにくいものが多く、放射線療法が第一選択になることはあまりありません。手術ができない場合や、手術前に放射線療法を行って腫瘍をできるだけ小さくして手術で切除しやすくする場合や、手術後に腫瘍の取り残しが考えられる場合などに行います(補助的放射線療法)。

通常、体の外から照射する外部照射が行われています。再発腫瘍や手術後の術野には、腫瘍細胞が広く散らばっていることも多く、再手術を行っても腫瘍細胞を取り残す場合が多いと考えられます。この場合、再発防止のために手術で切除した後、腫瘍細胞が散らばっていると考えられる範囲に小さいチューブを多数置いてきて、手術後にこのチューブのなかに放射線源であるイリジウムを入れて、密封小線源療法を行うこともあります。そのほか、腫瘍の切除後、手術中に照射する術中照射があります。

 

6.病期(ステージ)別治療

I期
血行性転移の危険性は少なく、局所療法として外科切除が基本で広範切除を行います。十分な広範切除が行えなかった場合には、再度広範切除を行うか、放射線療法を追加することがあります。

II期
局所療法は外科療法が基本で広範切除を行います。十分な広範切除が行えなかった場合、放射線療法を追加します。血行性転移を生じる危険性があり、転移を予防するために化学療法を追加することがあります。

III期
局所療法は外科療法が基本で、広範切除を行います。十分な広範切除が行えなかった場合、放射線療法を追加します。血行性転移の危険性が高く、血行性転移を予防するために、手術の前後に補助的化学療法を追加することがあります。

IV期
原発巣に対する局所療法は広範切除が原則ですが、転移巣、患者さんの状態に応じて化学療法や放射線療法を考慮します。一般的に完治は困難で、緩和治療を併用しながらうまく病気とつきあっていくことになります。

 

7.生存率

生存率は、通常、がんの進行度や治療内容別に算出しますが、患者さんの年齢や合併症(糖尿病などがん以外の病気)の有無などの影響も受けます。用いるデータによってこうした他の要素の分布(頻度)が異なるため、生存率の値が異なることがあります。
生存率の値そのものでなく、ある一定の幅(データによって異なりますが±5%とか10%等)を持たせて、大まかな目安としてお考えください。

米国のメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターなどで治療された症例の成績を参考にして、UICC/AJCC 2002年版の病期分類が決められています。転移のない軟部肉腫1,503例(1982~2002年)に関して病期別に治療成績を求めた結果は、おのおのの5年生存率が、I期88%、II期76%、III期54%です。5年無病生存率(再発、転移を認めない)は、I期81%、II期66%、III期49%と報告されていますが、日本の国内の治療成績もほぼ同様です。

また、国立がんセンター中央病院(現国立がん研究センター中央病院)で診断、治療が行われた745例の悪性軟部腫瘍で腫瘍型別に5年生存率を調べると、脂肪肉腫86%、粘液線維肉腫83%、線維肉腫72%、滑膜肉腫62%、多形型悪性線維性組織球腫47%、悪性末梢神経鞘腫45%、平滑筋肉腫33%でした。

 

がん情報サービス

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