軟部肉腫(小児)|なんぶにくしゅ(しょうに)

 

1.軟部肉腫(小児)とは

小児の軟部肉腫(あるいは悪性軟部腫瘍)とは、体の軟部組織から発生した悪性腫瘍のことです。軟部組織あるいは軟部とは、体の肺や肝臓などの実質臓器と支持組織である骨や皮膚を除いた筋肉、結合組織(腱)、脂肪、血管、リンパ管、関節、神経を指します。この腫瘍は、手足、後腹膜、頭頸部など体のいろいろな部位に発生します。

わが国での悪性軟部腫瘍の発生率は10万人に2人くらいで、まれな腫瘍です。このうち小児に発生する軟部肉腫はさらに少なく、全小児がんの5~6%にあたりますが、横紋筋(おうもんきん)の腫瘍である横紋筋肉腫および未分化肉腫(みぶんかにくしゅ)が、小児軟部肉腫の全症例の半数以上を占めます。

ここでは、横紋筋肉腫を除いた主な小児の軟部肉腫(非横紋筋肉腫性軟部肉腫)について説明します。軟部肉腫の種類は30種類以上もあり、多くの非横紋筋性軟部肉腫は、小児よりも成人に多く、小児も成人もほぼ同じ自然経過をたどります。代表的な小児軟部肉腫について、その発生起源と発生しやすい部位について述べます。

1)線維肉腫(せんいにくしゅ)
発生起源:線維組織
好発部位:上肢・下肢
体幹(たいかん:胴体)に発生する場合もあります。

乳幼児(4歳未満)に発生する線維肉腫は、局所では浸潤性(しんじゅんせい)ですが転移は少なく、手術単独で予後(治療による今後の見通し)は極めて良好です。

2)悪性末梢神経鞘腫瘍(悪性神経鞘腫瘍(あくせいしんけいしょうしゅよう))
発生起源:神経
好発部位:上肢・下肢、後腹膜、体幹

神経線維腫症1型の4%は悪性化して発症することもありますが、神経線維腫症に関係なく発生することもあります。滑膜肉腫に次いで、小児に多い軟部肉腫です。

3)滑膜肉腫(かつまくにくしゅ)
発生起源:関節の近く、しかし、その起源は不明です。
好発部位:下肢、次いで上肢、体幹に発生します。

横紋筋肉腫を除いた小児軟部肉腫で最も多く、20歳未満の患者さんが約3割を占めます。よく起こる転移は肺転移です。

4)平滑筋肉腫(へいかつきんにくしゅ)
発生起源:消化管、血管の平滑筋
好発部位:皮下、腹部か後腹膜に発生

5)脂肪肉腫(しぼうにくしゅ)
発生起源:脂肪
好発部位:下肢・上肢、後腹膜

乳児型は乳児期に発生し、高分化型脂肪肉腫は年長者に発生しやすいです。

6)悪性血管周皮腫(あくせいけっかんしゅうひしゅ)
発生起源:血管
好発部位:上肢、下肢、体幹、頭頸部

すべての年齢層に発生しますが、小児、乳児例は比較的高分化でおとなしいとされます。

7)胞巣状軟部肉腫(ほうそうじょうなんぶにくしゅ)
発生起源:筋肉、しかし、その起源は不明です。
好発部位:下肢、次いで上肢、頭頸部に発生します。

進行は非常にゆっくりした腫瘍ですが、肺転移を起こしやすく、肺転移が多発して気づかれることもあります。転移を起こす例は予後不良です。

8)類上皮肉腫
発生起源:起源は不明です。
好発部位:上肢、下肢特に手足から下腿、前腕、次いで、体幹部

腱、腱鞘(けんしょう)に沿って皮下に広範に広がる硬い小腫瘤(しょうしゅりゅう:硬結)や潰瘍(かいよう)を形成します。経過は長くゆっくりした腫瘍ですが、リンパ節転移や肺転移を起こし、予後不良です。

9)悪性線維性組織球腫(あくせいせんいせいそしききゅうしゅ)
発生起源:線維組織
好発部位:下肢、上肢

発生年齢は、腫瘍により多少の違いがみられます。線維肉腫では2歳以下の乳幼児に発生するものと、10歳から15歳に発生するものがあります。悪性血管周皮腫は乳幼児に発生する場合もありますが、そのほかの肉腫は、学童期以降に発生するものが多いようです。
軟部肉腫は治療しにくい腫瘍の1つであり、最初の治療の成否によって、その人の予後(今後の見通し)や術後の機能に大きな差が出てきます。したがって、軟部腫瘍の治療は早期発見とともに、必ず専門家のいる病院で治療することが大切です。軟部肉腫は種類が多く、確実な診断をするためには腫瘍の一部をとり(切開生検)、病理組織学的に診断します。この生検はその後の治療をするにあたって非常に大切な検査で、やはり専門的知識を必要とします。治療としては悪性度の高い肉腫は手術だけではなく、化学療法(抗がん剤)や放射線療法、さらには温熱療法などいろいろな治療を組み合わせる治療(集学的治療)を行います。

 

2.症状

軟部肉腫の大部分は、皮下や筋肉の中にできたこぶのようなものです。症状としては痛みのないしこり(腫瘤(しゅりゅう))や腫れ(腫脹(しゅちょう))ですが、痛みがないため放置されていることも多く、大きな腫瘤になって受診することもあります。また、大腿などでは筋肉の厚い場所に発生すると、腫瘤が触れにくいために、受診時には大腿全体が大きく腫れたようになっていることもあります。また、手足にできた腫瘍が大きくなると、関節が曲がらなくなったり、座ることができなくなったりすることもあります。一部には腫瘤自体に痛みがあったり、腫瘤が大きくなって神経を圧迫し、痛みを伴うこともあります。また、皮膚の色が変わったり潰瘍(かいよう)ができることもあります。乳児の場合、訴えがないので親の注意が大切です。

 

3.診断

まず視診と触診を行います、皮膚に治りにくい潰瘍ができている場合、悪性の疑いもあります。また深い場所に発生した腫瘍で硬いものは、悪性の可能性が高くなります。特に大きさが5cmを超える腫瘍は注意が必要です。病理組織診断のために針を刺して組織の一部を取り出して調べること(針生検)もあります。外来で簡単に行える検査ですが、針を刺す位置の問題や、刺したあとに出血して病巣が広がってしまうこともあるので、やはり専門家に任せることが大切です。悪性の疑いがある場合は腫瘍の性質や広がりを調べるため、CT、MRI、超音波や血管造影などの検査を行います。これらの検査により、腫瘍の形や広がりを詳細かつ立体的につかむことができます。

軟部肉腫は血行性転移を起こしやすく、多くは肺に転移します。肉腫の種類によってはまれにリンパ節転移が起こります。転移を調べるためには、胸部、腹部のCT検査を行い、リンパ節転移やそのほかの転移を調べるためには、アイソトープを使ったシンチグラフィー(RI)などの検査も行います。さらに約1cm角の組織を採取(切開生検)して病理組織学的に調べ、腫瘍の種類(組織亜型)やたちの悪さ(組織学的悪性度:細胞の形や増殖能力から判断します)を診断します。画像診断や病理組織学的検査は治療方針の決定や予後の予測に非常に大切です。

 

4.病期(ステージ)

軟部肉腫という診断がついた場合、肉腫がどの程度広がっているか、血行性に臓器転移しているかについて検査が行われます。その結果、肉腫の広がりの程度に応じて治療方法が変わってきます。この肉腫の広がりの程度を病期(ステージ)といいます。いくつかの分類はありますが、小児の軟部肉腫では、すべての肉腫に有用な病期分類はありません。したがって、腫瘍の広がりや手術後の取り残しの程度などにより、次の3つに分けて治療法が選択されることが多いです。

1)転移なし
腫瘍が発生した原発巣のみで、ほかの臓器への転移を認めないもの。
その中で、完全に切除された腫瘍で、組織学的に切除縁が陰性のもの(第I群)、肉眼的には切除された腫瘍でも、顕微鏡的に残存腫瘍が認められたもの(第II群)、不完全切除か、あるいは生検のみで肉眼的腫瘍が残存したもの(第III群)に分けて治療を組み立てます。

2)転移あり
腫瘍が発生した原発巣のみではなく、ほかの臓器への転移を認めるもの(第IV群)

3)再発性
以前に治療が行われた後、腫瘍が発生した局所やほかの臓器に再発したもの

 

5.治療

治療には外科療法(手術)、化学療法(抗がん剤)、放射線療法などがあります。外科療法、放射線療法は局所の療法で、化学療法は全身的な治療です。転移があったり転移が疑われたりする場合や、悪性度の高い腫瘍では、全身的な治療が必要です。
温熱療法は、局所療法になります。化学療法との併用効果があるという比較臨床試験が最近海外で発表されていますが、現在安全性などが議論されています。骨軟部腫瘍の治療法として、確立してはいません。
免疫療法は、全身的な治療になります。ミニ移植やインターフェロンの効果や他の治療との併用が議論されているものの、骨軟部腫瘍の治療法として、確立してはいません。

現在、軟部肉腫治療の主体は外科療法ですが、悪性度の高い腫瘍では、化学療法や放射線療法を組み合わせて治療を行うことが大切です。

1)外科療法(手術)
腫瘍が発生した局所にとどまっている場合、その局所の腫瘍を除去することができるのは外科療法です。局所で再発しにくい手術を行うためには、腫瘍の性質をよく知って手術を行うことが大切です。腫瘍は徐々に成長するときに、腫瘍の周囲に反応層といわれる膜のようなものをつくります。一見、この膜は腫瘍とは関係ないようですが、この反応層の中にはすでに腫瘍細胞が入り込んでいます。したがって、反応層での切除は高い再発率を招きます。
正しい切除法とは、反応層の外側で周囲の正常組織を十分含めて切除することです(広範切除)。近年、腫瘍を大きく切除した後、再建として別の部位の皮膚、筋肉、骨などを切除部位に持ってきて細い血管を顕微鏡下でつないだり、静脈や人工血管を使って血管を移植したりする技術が進歩してきました。そのため、以前であれば切断するしかなかった患者さんが、手足を残して機能を温存できるようになってきました(患肢温存術)。現在、国立がん研究センターでの患肢温存率は90%以上です。しかし、腫瘍が大きくなりすぎて、血管や神経が侵され、切断、離断になることもあります。リンパ節転移が疑われる場合は、リンパ節郭清(かくせい)と呼ばれるリンパ節の切除を行います。

2)化学療法(抗がん剤)
抗がん剤を用いて腫瘍細胞を死滅させる方法を、化学療法といいます。静脈から点滴で投与された抗がん剤は、血流に乗って全身に行き渡り腫瘍細胞を死滅させます(全身投与)。また、腫瘍に血液を送っている動脈に直接抗がん剤を注入し、局所の腫瘍を死滅させる方法もあります(動脈内投与)。手術後、再発転移を起こす腫瘍は、いろいろな検査を行っても発見できない小さな転移(微小転移)があると考えられます。このような微小転移を治療するため、術前や術後に抗がん剤の全身投与を行います(補助的化学療法)。手術前に行えば局所の腫瘍が小さくなることも期待できますし、術後に行えば再発転移の防止にもなります。また、肺転移巣やそのほかの転移巣の治療あるいは手術ができない場合に、化学療法を行うこともあります。

通常、全身投与は数種類の抗がん剤を併用して投与します。従来、化学療法は副作用が強く、つらい治療の1つでしたが、最近は副作用を軽減する新しい薬剤やいろいろな支持療法が行われ、安全に行うことができるようになっています。

3)放射線療法
腫瘍細胞を死滅させ、腫瘍を小さくするために行います。しかし、軟部肉腫は放射線療法が比較的効きにくいものが多く、放射線療法を第一に選択することはあまりありません。手術ができない場合や、手術前に放射線療法を行って腫瘍をできるだけ小さくして手術で切除しやすくする場合や、手術後に腫瘍の取り残しが考えられる場合などに行います(補助的放射線療法)。

通常、体の外から照射する外部照射が行われています。再発腫瘍や不十分な手術後の術野には、腫瘍細胞が広く散らばっていることも多く、再手術を行っても腫瘍細胞を取り残す場合が多いと考えられます。この場合、再発防止のために手術で切除した後、腫瘍細胞が散らばっていると考えられる範囲に小さいチューブを多数置いてきて、手術後にこのチューブの中に放射線源であるイリジウムを入れて密封小線源療法を行うこともあります。そのほか、腫瘍を切除後、手術中に照射する術中照射があります。

小児に対する放射線療法は、治療後に皮膚や軟部組織が萎縮(いしゅく)したり、骨が死んだり(骨壊死(こつえし))して、手足の変形や成長障害を伴うことがあり、放射線療法を行うかどうかの判断は慎重にすることが大切です。

 

6.病期(ステージ)別治療

1)転移なしの治療
原発腫瘍、所属リンパ節ともに広範切除で完全に切除され、病理学的にも微小残存腫瘍細胞がないとき(第I群)は、局所補助療法は行いません。微小残存陽性例(第II群)では追加放射線治療が行われますが、肉眼的残存腫瘍、生検だけの症例(第III群)では、まず外科的再切除が検討されます。解剖学的に追加切除が不可能な場合、放射線治療も検討されます。化学療法については、悪性度の高い腫瘍に対しては有用性が確認されつつありますが、悪性度の低い腫瘍には無効です。

代表的な小児発生軟部腫瘍別に補助療法の必要性についてまとめると、

線維肉腫(年齢の高い小児)、神経線維肉腫、悪性血管周皮腫(4歳以上の小児)、悪性線維性組織球腫、平滑筋肉腫に対しては、手術療法で広範切除を行います。もし広範切除が十分でなかった場合は、放射線療法と化学療法を併用することもあります。

高分化線維肉腫(乳児)、高分化悪性血管周皮腫(4歳以下)、脂肪肉腫に対しては、手術療法で広範切除を行うことが最良です。もし術後に腫瘍が少し残った場合には、再度切除を行います。術後の放射線療法や化学療法は行いません。

胞巣状軟部肉腫は非常にまれな腫瘍で、経過はゆっくりしていますが、予後はよくありません。この腫瘍に対しては、手術療法により広範切除を行うことが最良です。もし十分な切除ができなかった場合は、放射線療法を追加することもあります。化学療法の効果は期待できませんので、化学療法はほとんど行いません。

2)転移を認めた症例の治療
血行性転移を認める小児の軟部肉腫の場合は、どの種類の腫瘍でも予後はよくありません。原発の局所病巣に対しては、手術で広範切除します。そのあと、転移巣や患者さんの状況に合わせて化学療法を行います。化学療法の効果が認められ、手術が可能になれば転移病巣を切除することもあります。

3)再発転移
再発腫瘍の予後はよくありません。治療の選択は、以前に行われた治療の種類や再発の場所、さらには全身状態などに左右され、標準的な方法はありません。唯一、局所のみの再発例に対して手術による広範切除が勧められますが、治療成績はより不良です。遠隔転移で再発した場合、転移や患者さんの状況に合わせて化学療法や放射線療法が行われることもありますが、患者さんの体力、病状の進行状況では緩和治療が最も優れた治療になることもあります。

 

7.生存率

生存率は、通常、がんの進行度や治療内容別に算出しますが、患者さんの年齢や合併症(糖尿病などがん以外の病気)の有無などの影響も受けます。用いるデータによってこうした他の要素の分布(頻度)が異なるため、生存率の値が異なる可能性があります。
ここに示す生存率は、これまでの国立がんセンターのホームページに掲載されていたものです。生存率の値そのものではなく、ある一定の幅(データによって異なりますが±5%とか10%等)を持たせて、大まかな目安としてお考えください。

国内では、小児、若年者の悪性軟部腫瘍の治療成績は不良とされてきました。線維肉腫での5歳以下の場合は83~92%、5歳以上の場合は60%、滑膜肉腫45~70%、胞巣状軟部肉腫50%、悪性線維性組織球腫50%以下、悪性血管周皮腫(年齢の高い小児)30~70%などと報告されてきました。しかし1995年以降の欧米からの報告では、局所の放射線治療や高悪性度に対する全身化学療法が追加され、非横紋筋軟部肉腫の成績は約70%の5年生存率が報告されています。早期の診断、徹底した初回外科治療、補助療法の有用性が治療成績改善に結びついています。

国内でも手術手技の向上が進み、手足の悪性軟部腫瘍に対する成績は成人とほぼ同等、もしくはむしろ良好です。

 

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