下咽頭がん|かいんとうがん

1.下咽頭がんとは

人間の「のど」は、咽頭と喉頭の2つの部位からできています。そして咽頭は鼻に近いほうから上咽頭、中咽頭、下咽頭と下がっていき食道に続いていくので、下咽頭はのどの一番底の部分ということになります。また、喉頭は下咽頭の前面に位置しています。「のどぼとけ」にあたるところが喉頭で、その後ろが下咽頭ということになります。のどのおおまかな役割は、空気の通り道と食べ物の通り道の2つですが、中咽頭はひとつの道で2つの機能を果たし、喉頭と下咽頭のところでそれぞれ専門の2つの道に分かれます(空気:喉頭→気管→肺、食物:下咽頭→食道→胃)。この下咽頭にがんが発生した時、下咽頭がんといいます。

下咽頭がんの原因はまだよくわかっていませんが、喫煙や飲酒との因果関係が深いといわれています。ヘビースモーカーで大酒飲みの方ほど下咽頭がんにかかりやすく、下咽頭がんの「高危険群」といわれています。男性は女性の4~5倍の頻度で発生し、年齢は50~60歳代に多く、全体の60%以上はこの年代に発症します。ただ、下咽頭がんの発症に関してひとつ例外的なことは、下咽頭の輪状後部という部位にできるがんは、喫煙や飲酒に関係なく貧血(特に鉄欠乏性貧血)をもつ女性に多く発症するということです。

下咽頭がんも他のがんと同じように、早い時期に発見されれば手術や放射線療法により完全に治ります。しかし、下咽頭はがんがかなり大きくならないと症状が出ない部位であり、また頸部のリンパ節に転移しやすい特徴をもっています。そのため、下咽頭がんの60%以上は、初診時にはすでに喉頭に浸潤(しんじゅん:がんが周囲に拡がること)していたり、頸部リンパ節転移を伴う進行がんです。進行がんの治療の主体は手術となり、手術に放射線や抗がん剤の治療を組み合わせることもあります。手術は声帯を含め喉頭を全部とらざるを得ない場合がほとんどですが、最近はがんの浸潤範囲により、声帯を一部残すこともできるようになってきました。

下咽頭がんが発見された方の25~30%に、食道がん(転移ではなく全く別のがん)が見つかっており、これを重複がん(同じ方に2つ以上の別ながんができること)といいます。これは食道がんの発生も下咽頭がんと同様に、飲酒や喫煙と深い関係があることが原因と考えられています。特にもともとはお酒が弱い体質なのに、鍛えて鍛えて強くなった方に下咽頭と食道の重複がんが多いことが最近の研究でわかってきました。そのため、下咽頭がんは治療前に上部消化管内視鏡(胃カメラ)の検査が必須となります。治療は下咽頭がんと同時に手術したり、下咽頭がんとは別に内視鏡(胃カメラ)で切除したりします。下咽頭がんと食道がんのそれぞれの病気の進みぐあいによって、手術の方法や治療法が異なってきます。

 

2.症状

1)嚥下(えんげ:飲み込むこと)時の異物感
下咽頭は食物の通り道なので、内腔に腫瘍が突出してくると、嚥下時に何かひっかかる感じやスッキリ飲み込めない感じが持続します。また、潰瘍(かいよう)型の腫瘍では焼けつくような痛みが出てくることもあります。

2)耳への放散痛
1)の症状と関連して嚥下時に耳の奥に鋭い痛みが走り、中耳炎にでもなったのではないかと思うような症状がおこります。これは下咽頭と耳をつなぐ神経の経路があるためで、下咽頭がんや進行した喉頭がんに特徴的な症状です。

3)声がれ
風邪でもないのにしわがれ声が続き、徐々に進行します。これはがんが喉頭に浸潤したり、声帯を動かす神経(反回神経)を麻痺させるために出てきます。また、さらに進行すると空気の通り道が狭まるために、ゼーゼーして息苦しくなります。

4)頸腫(けいしゅ:頸部のしこり)
下咽頭がんは、頸部のリンパ節(風邪の時や扁桃腺がはれると首に触れるグリグリのこと)に転移しやすく、約60%の人が初診時にはすでに転移しています。頸腫はこのリンパ節のはれです。のどの症状は全くなく、頸腫が唯一の自覚症状であることもあります。顎(あご)の骨の下方から鎖骨までの間で、複数個はれることも両側はれることもまれではありません。はじめは痛みもなく徐々に大きくなり、急激に大きくなることもあります。

これらの症状はいずれも徐々に進行増悪するのが特徴で、一度出た症状が治療なしに消失することはほとんどありません。

 

3.診断

下咽頭は構造上観察しづらい部位ですが、間接喉頭鏡という鏡を使ったり内視鏡でのどの奥をのぞきます。また、頸部を丹念に触ること(触診)によって、リンパ節転移の有無や、がんが周囲の組織にどの程度浸潤しているかを診断します。経験ある頭頸部外科医であれば、診察に訪れた初診時に診断が可能です。

診断をつけるための検査は大別して2種類あり、それががんかどうか決めるための検査と、それががんならばどの程度拡がっているのかを知るための検査です。

がんの治療方針を決める際の最も重要な病理検査(そのがんがどんな種類の細胞で構成されているかを調べる)のために、間接喉頭鏡や内視鏡を使ってがんのほんの一部を切除します(生検といいます)。また治療の際に、がんの浸潤がどこまでおよんでいるかが重要なポイントになるので、補助検査としてレントゲン(バリウムによる透視)やMRI、CTを行います。前にも述べたように、食道がんの合併が多いので、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を施行して重複がんがないかどうかチェックします。進行下咽頭がんは、他の臓器に転移する(遠隔転移)こともしばしばあるため、胸部レントゲンや、転移が疑われる臓器のCTやMRIを行います。

 

4.病期(ステージ)

下咽頭がんと診断がついた場合、そのがん細胞が周囲組織にどの程度拡がっているのか、頸部のリンパ節への転移があるのか、また肺などの他の臓器に転移があるのかについての検査が行われます。この検査でわかったがん細胞の拡がりぐあい(がんの進みぐあい)を病期といい、治療計画を立てる上で非常に重要です。下咽頭がんの場合、次のように分類します。

I期
がんが下咽頭のひとつの部位にとどまるかその大きさが2cm以下であり、頸部のリンパ節には転移がおよんでいない状態です。

II期
がんが下咽頭のひとつの部位にとどまらず隣の部位にまで拡がっているが、喉頭の中には入り込んでいないか、がんの大きさが2cmより大きく4cm以下であり、頸部のリンパ節にも転移がおよんでいない状態です。

III期
がんが下咽頭のひとつの部位にとどまらず隣の部位に拡がっており、かつ喉頭の中に入り込んでいて、声帯(声をだすところ)が動かない状態か、がんの大きさが4cmを超えるか、がんと同じ側の頸部リンパ節に3cm以下の転移が1個ある状態です。

IV期
がんが下咽頭にとどまらず周囲組織(骨、軟骨、筋肉など)に拡がっている状態か、頸部リンパ節への転移が6cm以上になったり2個以上あったり、がんと逆側の首に出てきた状態か、他の臓器(肺、骨など)に転移している状態です

I期とII期をあわせて早期がん、III期とIV期をあわせて進行がんと呼びます。

 

5.治療

下咽頭がんの治療方法は、大きく分けて外科療法、放射線療法、抗がん剤による化学療法の3種類があります。どの治療を選ぶか、単独治療かいくつかを組み合わせて治療(集学的治療)するかは、がんの発生した部位、がんの細胞の種類、病期、一般的な健康状態(持病や現在患っている病気、心臓、肺、肝臓などの重要な臓器の現在の機能など)や年齢によって決まります。また、治療法にはそれぞれ長所、短所があるので、担当医から十分な説明を受け理解した上で、最終的には自分自身で治療法を決めることになります。今後の生活を決める治療法ですから、理解できないことがあれば何回でも担当医に聞いて下さい。担当医との十分な話し合いは治療を円滑に行う上で大変重要です。

1)外科療法
下咽頭にできたがんや、頸部リンパ節を切除するために行います。初診時60%以上が進行がんである下咽頭がんでは、放射線や抗がん剤だけで完治する数は非常に少ないので、現時点において手術が下咽頭がん治療の中心となっています。下咽頭に限らず、がんの手術は、一般にがんを中心に周囲に正常組織を十分つけ、がんを正常組織で包み込むように切りとるのが大原則です。それが「がんは大きくとらなければいけない」とよくいわれる理由ですが、下咽頭の場合、話したり、食物を飲み込んだりできなくなるので、大きく切除するほど機能が悪くなります。また、機能を残そうとすると小さい範囲しか切除できません。国立がん研究センターでは、がんの根治と機能保存が両立できる手術法を研究、開発しており、一部の下咽頭がんにはできるようになってきました。現在行われている下咽頭がんの手術は次のような方法があります。

(1)下咽頭・喉頭・頸部食道切除術
現在最もよく行われている手術で、喉頭および下咽頭の全部、頸部食道の一部または全部を切除します。下咽頭がんが喉頭に深く浸潤している場合に行います。切除後の欠損部は、腸の一部または皮膚を移植して食道を再建しますので、食事は今までどおりできます。しかし、喉頭は全部切除するので発声はできず、呼吸するための穴(気管孔)が一生頸部に開いたままとなります(詳しくは「永久気管孔」の項を参照して下さい)。術後の発声は、人工喉頭などの器具を使ったり、トレ-ニングで食道発声を習得することによって可能なので、意思伝達が全くできなくなるわけではありません(詳しくは「発声障害(失声)」の項を参照して下さい)。

(2)下咽頭・喉頭・全食道抜去術
下咽頭、喉頭の切除については、(1)と同様、食道を全摘除します。切除後は、胃を持ち上げて咽頭の粘膜と縫合(ほうごう)します。食道にもがんがあり、手術が必要な場合や、何らかの理由で腸の移植ができない場合に行います。発声や気管孔は(1)と同じです。

(3)下咽頭部分切除術
喉頭の一部または全部を保存し、下咽頭の一部を切除する方法で、がんが喉頭に浸潤していないか、浸潤していても軽度の場合に行います。切除後は欠損の大きさによって下咽頭の粘膜を一次的に縫い縮めたり、腸や腕の皮膚を移植して再建します。術後発声は可能で、気管孔も必要ない場合がほとんどです。この術式は現在最も力を入れている方法ですが、すべての下咽頭がんにできるわけではなく、がんの拡がりぐあいや年齢、持病の有無などで、この手術が行えるかどうかが決まります。

(4)頸部郭清術(けいぶかくせいじゅつ)
下咽頭がんが頸部のリンパ節に転移していたり、転移している可能性が高い場合に行う手術で、上記の下咽頭に対する1)、2)、3)の手術と同時に行ったり、下咽頭への放射線治療後、頸部転移に対して単独で施行したりします。下咽頭がんから頸部リンパ節への転移は、がん細胞が頸部のリンパ管を通ってリンパ節へ到達しておこるので、リンパ節のみ切除してもあまり意味がなく、リンパ管とリンパ節(リンパ系)を根こそぎ切除してはじめて意味があります。リンパ系は主に頸部の皮膚裏面の脂肪組織の中に含まれるので、頸部郭清術はその脂肪組織を切除することになります。脂肪組織の中には重要な血管や神経もありますので、それらを傷つけないように脂肪組織だけを切除するのが理想ですが、転移リンパ節の大きさや周囲への浸潤の程度によっては、神経や血管を残すことができない場合もしばしばあります。

2) 放射線療法
下咽頭がんに対する放射線治療は、放射線単独で行う場合と、手術と組み合わせて行う場合があります。放射線単独での治療は、頸部にリンパ節転移が明らかでない比較的早期の場合(I、II期)やIII、IV期でも手術ができない場合に行います。また、抗がん剤と組み合わせて行うこともあります。この治療でがんが治癒すると、喉頭や咽頭の切除の必要がなく、発声や飲み込みの不自由があまりない発病前と同様の生活が可能です。手術と組み合わせた放射線治療は、手術を行う前にがんを小さくして手術を行いやすくするために行ったり、手術が終わってから再発を予防するために行います。

放射線単独で行う治療期間は、通常6~7週で週5回(月~金)治療します。触診やCT、MRIなどで頸部、咽頭周囲のリンパ節転移がないと診断されても、小さなリンパ節転移が存在する可能性があるので、咽頭上部から下方は鎖骨部までの広い範囲を治療します。この広い範囲の治療を4~5週行い、その後は治療前にがんの存在がはっきりとわかっていた部位に小さく絞り込みます。治療が終了してもがんが残ったり、見た目にはいったん消失してしまったがんが再び大きくなった場合は、手術が必要になることもあります。

手術前に行う場合は、上記の広い範囲に通常4~5週の治療を行い、終了後1ヶ月までには手術をします。手術でとりきれなかった可能性がある場合には、手術後に放射線治療を行います。治療範囲は上記の広い範囲に通常5~6週の治療を行います。がんが残っている可能性が特に高い部位に範囲を限って治療することもあります。

副作用には疲れる、食欲がなくなるといった全身の症状が出ることもありますが、主な副作用は治療される部位におこってきます。副作用が出てくる時期は、放射線治療開始より3ヶ月以内のもの(急性期)と3ヶ月以降に出現するもの(遅発性)があります。急性期の副作用としては、口腔、咽頭、喉頭の粘膜炎による飲み込みにくさ、飲み込む時の痛み、声がかれるといった症状が出てきます。通常、治療を開始してから2週間前後から症状が出てきます。唾液を分泌する唾液腺の機能が低下し、口が乾いたり、味覚が変わったりもします。しだいに普通の食事をするのがつらくなってきて、刺激の少ない物、柔らかい物や液状の栄養剤の摂取が必要になることもあります。皮膚には日焼けのような変化がおこってきます。発赤、色素沈着、乾燥、皮膚剥離(ひふはくり)といった変化がおこってきます。かゆみや痛みを伴うこともあります。副作用がおこったら症状を軽くする薬を服用したりしますが、完全には症状がとれないことがあります。粘膜炎の症状は治療が終わるとよくなりますが、口が乾いたり、味覚の変化は続くこともあります。食事摂取量が減ると体重減少もみられます。放射線治療を行っている間は、入院が必要になる副作用が出ることもありますが、多くの場合は外来通院での治療が十分に可能です。

治療が終了してからの遅発性の副作用には、頸部の皮膚が硬くなったり、口の乾きが続いたりということがあります。甲状腺機能低下症も、ときにはおこることもありますが、症状が出ることはほとんどありません。非常にまれですが、咽頭・喉頭の炎症が続いて呼吸が苦しくなってしまうことがあります。その場合は、がんは治っていても咽頭・喉頭の切除が必要になることがあります。脊髄に多くの放射線が照射されると、脊髄症(身体・四肢の麻痺やしびれ)がおこることがあります。そのようなことにならないように、放射線照射の方法を工夫して脊髄への放射線量が少なくなるようにします。

3)抗がん剤による化学療法
現在下咽頭がんの治療において、どのような病期においても化学療法を単独で行うことはほとんどなく、外科療法や放射線療法と併用されます。化学療法は、静脈(まれに動脈)より抗がん剤を点滴で入れます。血液中に入った抗がん剤は、血流に乗って全身をめぐり、下咽頭のみならず外に拡がったがん細胞を殺すことができます。このことにより、外科療法や放射線療法が局所治療と呼ばれるのに対し、化学療法が全身治療と呼ばれるゆえんです。下咽頭がんの場合、使用する抗がん剤は通常2種類(シスプラチン、フルオロウラシル)で、抗がん剤を投与する期間は1~2週間ですが、併用する治療によって若干異なります。この抗がん剤治療を3~4週ごとに繰り返します。下咽頭のがんが周囲臓器に深く浸潤していたり、頸部リンパ節転移が両側性や多発性の進行がんに多く使われます。それはこのような進行がんは大きな手術をしても再発することが多く、何とか機能を温存して治療できないかという発想からきており、この場合には放射線を同時に併用することがほとんどです。また手術などで、局所治療後に時間がたって肺などに転移した場合(遠隔転移)、全身治療として化学療法を行うことがあります。

以上、治療法について概略を述べましたが、どの治療法をどのように行うかは、同じ下咽頭がんでも病気の進みぐあいを含め、それぞれによって全く違います。一番適した治療法を、担当医との十分な話し合いのもとに決めることが重要です。

 

6.生存率

生存率は、通常、がんの進行度や治療内容別に算出しますが、患者さんの年齢や合併症(糖尿病などがん以外の病気)の有無などの影響も受けます。用いるデータによってこうした他の要素の分布(頻度)が異なるため、生存率の値が異なる可能性があります。
ここにお示しする生存率は、これまでの国立がんセンターのホームページに掲載されていたものです。生存率の値そのものでなく、ある一定の幅(データによって異なりますが±5%とか10%等)をもたせて、大まかな目安としてお考え下さい。
一般的にがんが治療によって治ったかどうかの指標は、5年生存率(治療後5年間生きる人が、全体の何%いるか)であらわします。下咽頭がんは頭頸部がんの中で最も治りにくいがんのひとつで、外科療法を中心に治療を受けた方の5年生存率は全体で40%弱です。病期が早ければ治りやすく、病期が進めば治りにくいので、I期で約70%、II期III期で40~50%、IV期で30%弱です。放射線単独治療の5年生存率は、I期、II期の早期がんに限定されますが、40~60%です。

また、進行がんに対する放射線・抗がん剤併用療法の治療成績は、治療をはじめてまだ治療後5年経過した方がいませんので、3年生存率は30%強です。

がん情報サービス

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