上咽頭がん|じょういんとうがん

1.上咽頭がんとは

上咽頭は解剖学的に鼻腔のつきあたりで、口を開けた時に見える口蓋垂、および扁桃腺(正しくは口蓋扁桃)の上後方の部位をさし、頭蓋底の骨を境として脳と接しています。この部位に発生するもので耳慣れたものはアデノイド(腺様増殖症)です。アデノイドは咽頭扁桃という組織が増殖するものですが、腫瘍性のものではありません。上咽頭がんはその周辺に発生する悪性腫瘍です。上咽頭の側壁には、耳管開口部と呼ばれる中耳と連絡する管の出口があります。このため、上咽頭がんでは鼻症状のみでなく、耳に関連した症状も出現します。

上咽頭がんは台湾、中国南部、東南アジアなどの地域に多く発生し、わが国ではまれな疾患です。現在、わが国における1年間の上咽頭がん発生数は、約500例と推定されます。男女比は3:1で男性に多く、年齢的には40~70歳代に多発していますが、10~30歳代にもみられます。組織学的には、ほとんどの場合が低分化型扁平上皮がんで、悪性リンパ腫がこれに次いでいます。頭頸部がんで、通常みられる高分化型扁平上皮がんは少なく、腺組織由来のがんはさらに少なくなっています。

上咽頭がんはまれながんですが、中国、台湾など東南アジア地区で伝統的に食べられる塩蔵魚でリスクが高くなることが確実とされています。特に、乳児期から幼少時代の摂取はリスクの増大につながります。また、ホルムアルデヒドの取り扱い作業との関連は、確立したリスク要因です。その他にEBウイルス(Epstein-Barr virus)やHLAの多型についても関連が指摘されていますが、まだよくわかっていません。

 

2.症状

上咽頭がんの症状としては、頸部リンパ節と呼ばれる首のリンパ節の腫脹(しゅちょう)があげられます。この腫脹は上咽頭がんの頸部リンパ節転移によるもので、多くの場合、耳介の下斜め後方にあるリンパ節(副神経リンパ節)が腫脹しますが、病気が進むと他の頸部リンパ節も腫脹してきます。上咽頭がんは、頸部リンパ節に転移することが多く、ほとんどの症例に認められています。頸部リンパ節の腫脹のみを主訴として外科や内科を受診し、なかなか診断がつかず、腫脹した頸部リンパ節の生検の結果、はじめて頭頸科(耳鼻咽喉科)で上咽頭がんの診断が確定することもあります。

上咽頭のがんそのものによる症状としては、鼻症状、耳症状および脳神経症状があげられます。鼻症状は鼻づまりと鼻出血が主なものです。この時の鼻出血は血液のみではなく、鼻をかむと鼻汁に血液が混じり、これが継続するというものです。耳症状は耳管開口部が、がんにより閉塞して耳のつまったような感じ、難聴(多くは片側性)などの症状をおこします。脳神経症状は、がんが脳神経を圧迫、あるいは直接侵すことにより発症します。どの脳神経も侵される可能性がありますが、外転神経障害のため物が二重に見えたりする他、まれに視神経の障害による視力障害や、三叉神経が圧迫されたり侵されることによる疼痛が認められます。

上咽頭がんは低分化型扁平上皮がんが多いため、他の頭頸部がんよりも遠隔転移が多く認められます。肺・骨・肝臓が遠隔転移の最も多い部位です。肺転移による胸部レントゲン写真上の異常陰影、骨転移による骨の痛み、肝転移による腹部超音波検査での異常像などによって遠隔転移が先に発見されることもあります。

 

3.診断

視診と組織診断により診断を確定します。がんの深部への拡がり、骨破壊の程度などを把握するためにCT、MRIを中心とした画像診断を行います。視診は、口腔内から後鼻鏡で「鼻でニオイをかぐように」といった呼吸をしながら観察する方法と、鼻からファイバースコープを挿入して直接観察する方法があります。

組織診断は、まず口腔、鼻腔、上咽頭にスプレーで局所麻酔剤を塗布し、咽頭反射と表面の疼痛を除去します。次に鼻腔からネラトンカテーテルといわれる細いチューブを挿入して軟口蓋を前方へ引出し、視野を広くしてから鉗子で腫瘍の一部を採取します。ときに頸部リンパ節のみにがんが認められ、上咽頭に変化のない場合でも、上咽頭が原発巣と疑われる時には、正常と思われる部位の組織をとることがあります(ブラインド・バイオプシー)。これは、正常と思われる粘膜の下にがん組織が隠れていることがあるからです。

 

4.病期(ステージ)

原発巣を4段階に分け、頸部リンパ節転移も4段階に分けて、がんの進展範囲により病期を決定します。前述のように上咽頭がんは早期に特徴的な症状が出にくいので、初診時すでに原発巣が進行していたり、頸部リンパ節転移を認めたりするケースの頻度が高くなっています。原発巣が頭蓋底に進展し、脳神経症状が出現すると最も進んだ病期となります。

上咽頭がんは次のように分類されます(他の頭頸部がんと少し異なります)。

I期
がんが上咽頭にとどまっている状態。

II期
がんが中咽頭(咽頭後壁、口蓋扁桃、軟口蓋など)や鼻腔などの隣の部位に拡がっているがリンパ節転移がない、咽頭側方への拡がりがあるか鎖骨上のリンパ節以外の片側のリンパ節転移がある(A)。がんが上咽頭にとどまっていてもがんと同じ側の6cm以下の頸部リンパ節転移がある、あるいは咽頭側方から頭蓋底付近へのがんの浸潤がある(B)状態。

III期
がんが骨組織や副鼻腔に拡がっているか、両側の6cm以下の頸部リンパ節転移がある状態。

IV期
がんがさらに広範に浸潤し、頭の中(頭蓋内)、脳神経、眼窩、下咽頭などへ拡がる、頸部リンパ節転移が6cmを超えるか、転移が鎖骨上までおよぶ、遠隔転移を認めるといった状態。

 

5.治療

上咽頭がんの治療は、原発巣、頸部リンパ節転移に基づくどの病期でも放射線療法が主体となります。頸部リンパ節転移に関しても通常、多発性、両側性で切除(頸部郭清術)を施行しても再発する可能性が高いことから放射線療法が優先されます。放射線療法では、消失しないリンパ節転移に対してはリンパ節を切除するリンパ節郭清(かくせい)術を施行することもあります。

抗がん剤による化学療法は、遠隔転移を認める場合や放射線療法の補助治療として用いることがあります。放射線の補助療法としては、放射線療法の前、放射線療法と同時、放射線療法終了後に化学療法を行うことがあります。放射線療法後に行う化学療法が最も治療成績の向上が得られたとする報告もありますが、抗がん剤と放射線療法をどのように組み合わせるのが最も優れているのか、まだはっきりわかっていません。

 

6.治療による副作用と生活

放射線療法による副作用が主なものとなります。放射線治療中は個人差はあるものの、口腔・咽頭粘膜炎、味覚の消失、口腔・咽頭の乾燥感などに悩まされます。これらの副作用は治療が終了すると改善しますが、口腔・咽頭乾燥感のみは後々まで症状が残ります。これは、放射線療法により唾液腺が萎縮し、唾液の分泌量が減るためにおこるものです。また、歯に対する障害や、第二次性徴前の若年者の場合は脳下垂体の障害による第二次性徴への影響が問題となります。

しかし、治療薬によるコントロールも可能になってきており、水分を絶えず少しずつとることで症状を緩和するなど工夫し、通常の生活を送ることができます。

 

7.生存率

生存率は、通常、がんの進行度や治療内容別に算出しますが、患者さんの年齢や合併症(糖尿病などがん以外の病気)の有無などの影響も受けます。用いるデータによってこうした他の要素の分布(頻度)が異なるため、生存率の値が異なる可能性があります。
ここにお示しする生存率は、これまでの国立がんセンターのホームページに掲載されていたものです。生存率の値そのものでなく、ある一定の幅(データによって異なりますが±5%とか10%等)をもたせて、大まかな目安としてお考え下さい。
上咽頭がん治療後の5年生存率(治療後5年を経過して生存している割合)は約50%です。

がん情報サービス

http://ganjoho.jp/